異能力者ハヤテ

異能力者ハヤテ

祖父に旅立たれ身寄りが無くなり山から下りて来たハヤテ丸の数奇な日常。

秀也には驕りがある。お金持ちの親と、誰もがひれ伏す組織のボスが叔父なのだ。労せずして2つの力を手にしているとの思い込み。良い悪いは別にして、父も叔父も1から築き上げたからその存在感に重みがある。産まれたときから周りにちやほやされて育ってきた彼には、なんのポリシーも信念も持ち合わせていない。あるのは、異常なまでに高いプライドと狡猾な悪知恵だけだった。周りの環境が彼を、そう育ててしまった。虎の衣を借りる狐とのことわざ通りである。彼自身が小物でも強大なバックを恐れて誰もが頭を下げるから、いつしか俺は大物だと勘違いをしてきた。だから自分のつまらないプライドを誇示しに、父と叔父が開発部を少し覗いて来ると席を立ったのを機に早速龍二という男にちょっかいを掛けようと事務所に入って行った。事務所と応接室は隣り合わせで開け放されていたから僕にはその様子が見て取れた。秀也は座っている男の正面にぞんざいに立ち文字通り上から目線で見下げながら話しかけた。「おい、おっさんよー。新米かい?俺は組のナンバー2の斑目秀也。この研究所の経営者の息子でもある。よろしくな。」一応挨拶をしている風である。だが男はちらっと秀也の顔をみて、興味がないという風に視線を落とした。「ああ・・・。」と素っ気無い。秀也の目付きが険しいものに変わったのがわかった。後でわかったのだが、秀也は叔父に憧れて幼い頃から空手を習い、有段者だということ。そして背丈は180㎝近くあるから、精彩を欠いた、影の薄い見た目にも弱そうなこの男の態度に血が昇ったようだった。秀也は最初が肝心だと思ったのか、片足を大きく振り上げ、踵をそのままテーブルに振り下ろした。『ガゴーン』と耳を劈くような轟音がして僕は腰を浮かさんばかりに驚いた。
「なめてんのか?!こらー!」その足を戻し掴みかかろうとした時、男が面倒くさそうに「死にたくなけりゃ俺に触るな。」と、ぼそりとひと言そういった。秀也は一瞬何を言ったのか解からなかった風に動きを止めたが「何ぬかしやがる、この野郎!」と尚も腕を伸ばし胸元を掴もうとした。が、掴めなかった。僕はその時、この世にはありえないものを観たと思った。よくビデオなんかで一時停止ボタンを押すと一瞬で静止画像となるけど、それと同じように秀也の動きが静止してしまったのだ。少し離れていたから勘違いかもしれないけど僕にはそう見えた。そしてどういうトリックを使っているのか秀也の体が徐々に宙に浮き上がっていくと、固まっていた体は戻ったが何故か苦しそうに顔を歪め喉元に両手を添えて掻き毟っている。そのうち顔色が赤くなり汗が噴出してきた。足元から水が滴っているのに気付き股の辺りに目をやると変色していた。尿を洩らしているのだ。再び顔を見るとチアノーゼを起し紫色になってる。それまで呆然と見ていた僕は(これは大変なことになる!)と、ようやく我に帰り急いで事務所に駆け込んだ。男は依然座ったまま、ぎらつく眼で秀也を見上げていた。「や、やめてください!お願いです!秀也君が本当に死んでしまいます!」僕は懇願した。それでも止めないので土下座をして許しを乞うた。その瞬間僕の横に『ドスン!』と音がして秀也が落ちてきた。泡を吹いて失神していた。丁度その時事務員の女の子が外から戻ってきて救急車を手配したから事なき終えたが、僕が止めなきゃ彼は本当に殺していたかもしれないと背筋がゾッとした。僕には彼が本物の鬼に見えた。