「ばあちゃん!

俺、女を妊娠させちゃった

相手既婚者で示談金払わなきゃいけなくて」



ばあちゃんは喜んだ



「良くやった!

相手の女性はそこにいるのかい?

既婚者だったらそれは本当に申し訳ない

示談金がいるなら払うから、

今度その女性を連れておいで」



電話はぷつっと切れた



ばあちゃんはすごく喜んで息子にすぐ

「孫が女性を妊娠させてしまった」

ことを言った


息子であるお父さんもそれは大喜びした


孫が今度女性を連れて帰る


○月○日

ばあちゃんは指定された日時を覚えていた

家族総出で出迎えようと、

お父さんは会社を休んでスーツまで着て

玄関でいつまでも待った


孫は帰って来ない


どういうことだ!?

お父さんは離れて暮らす本人に電話をかけて直接確認をした


「そんなことは知らない」


お父さんもばあちゃんも、

電話がオレオレ詐欺だとようやくわかった



ばあちゃんは大ダメージを受けた


せっかく孫が女性を連れて帰って来ると思って喜んだのに

ダメージが大きすぎて立ち直れなかった






そんな嘘みたいな話を知人が聞かせてくれた



この孫

知人の会社で働く20代前半の男性


女性は好きなのだが

当人が女性っぽい

手先が器用で人の言うことをよく聞く働き者

表現は下手だが素直な子だという


ひょろっとした背格好と顔立ちも可愛らしく

女性とのお付き合いもなければ

女性の影すら見たこともないと知人は言った


このままでは結婚も出来ない


昔からそうらしく、

家族はみんな心配していたようだった


そんな時の電話


ばあちゃんが一番喜んで、

示談金くらい自分が払うから、

女性と一緒になって欲しい


と思ったらしい



ばあちゃんは相当落ち込んだ


あまりの落ち込みに、

当人が申し訳ないと思った


それを聞いた知人や周りの友人達は、

ばあちゃんが可哀想だと、

見たこともないばあちゃんの為に

彼に合コンを開くと言った




詐欺にあって騙されずに済んだと喜ぶ話は聞くが、

詐欺にあって嘘だと知って泣く話は初めて聞いた





何年か前の話だが、

あれからどうなったのか

時が経ち過ぎてもう聞けない