お葬式
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事件性

兄の現場検証は、思ったよりも
早く終わった。
病院での、やり取りが長かったのかも知れないが

いちを、あたし達は
自分の家に入れるようになった。

家に着くと、父が亡くなる前のまま

何一つ代わりがなかった。

タバコが好きだった父のタバコの吸殻…

何本も何本も長いまま消されていた。

まるで、死ぬ事がわかっていたかのように

落ち着きが無く、一口、吸っては消し
吸っては消していた。

あたしは、無性に悲しくなった。

兄が、あたしを誘導し
『ここで、倒れとって
ここで、人工呼吸をした…』


父が倒れていた場所を指差した。

そこには、多量の出血した跡

バケツが転がっていた。


父も、少しは這ったのだろう…
力尽きた場所に

血や、戻した物の痕跡があった。

現場検証では、血が倒れた場所に多量の出血はあったものの
その血を、ざっと布製の物で拭き取った形跡があり

拭き取ったであろう、タオルや布製の物が見当たらない為

事件性があると

判断された。

まず

可能性があるのは、強盗殺人

金品を狙って入った強盗が

たまたま居合わせた父を、誤って殺してしまい

慌てた犯人は、証拠を消すため
父の血を拭き取り
家をでて逃げた。

そうゆう風に考えられた。

外から出入りがある形跡は無い。

だが、鍵を持っている人間は、沢山いた。

介護ヘルパーさん達には、鍵を全員に渡していた。

父が何かあった時に、発見が遅れない為
様子を見に来てくれていた人もいた。


あたしは、父は転倒し、打ち所が悪くて無くなったと思っていた。

なのに、いきなり強盗殺人だ。

もし、殺人事件となれば

あたしは、自分の父を殺されたなんて考えたくない

もし、そうなら絶対に許せない

許さない。

変死…


あたし達は、一気に事件の容疑者の一員になった。

幸い、病院のエレベーターで、あたしと娘は警察の男に逢っていた為

あたしと娘は、容疑者から外された。

検視をされて、検視で、これは不審死だとゆうことになると

司法解剖に回され

司法解剖でも、解らなければ

どんどん事件性をます。

しかも、警察がOKを出すまで
葬儀屋を頼めなかった。

検視の結果を待ち

その結果次第で、葬儀の予定は決まる。

あたし達は、心身共に疲れきっていた。

父が死んだ現実よりも

今、父が警察に検視を受け

不自然な死に方、事件性があると言われたら…

解剖されるのだ。

死んでまで、家に帰ってこれない父。

身内や、父を世話してくれたヘルパーさん達、回りの全ての人が容疑者扱いされた。

それが一番、辛かった。

あたしは、父を一度は家に連れて帰ってあげたいと思っていた。

父が倒れていた場所の血液は、数日を過ぎていた為、固まり

染みになっている。

兄は、父の倒れた場所に足を踏み込めないでいた。

あたしが、片付けるしか無い。

洗面所にお湯を張り

タオルをお湯で湿らせ

父の血を拭く


あたしは、子供のように叫んで泣いた。

『お父さん!!お父さん!!痛かったやろう?痛かったやろう…』


座り込んでワンワン叫んで泣いた。

だけど、あたししか、父の血を拭けない。

お父さん…

悲しかった。

今まで、生きてきて

一番に悲しく、辛かった。

もし、強盗なら

あたしが、犯人を殺してやると思った。

絶対仇は取ってやると思った。

あたしの泣いた声に、ビックリした兄が
二階から飛んで来た。


『恨まれるのは俺やから…お前じゃないから』


全く、兄は思考回路が、あたしとは、ずれている。

恨まれたってかまわない。

あたしは、父の最後がどんなに痛かったんやろう…と
悲しかったのだ。

着いていてあげたかった。

さすってあげたかった。

恨まれるのは、間違いなく、あんただが

そうゆう話しはしていない。

そうゆう事で泣いてはいない。

親父の血も触れないのに、いちいち、うるさい!!


あたしは、兄も傷ついているのだからと思ったが

あたしも、本当に辛かった。

現場検証

病院の待ち合い室

あたしは、複雑だった


つい、2週間ほど前には元気だった父が


氷のように冷たかった事

硬くて


顔も変わっていた事


何より


原因が解らない事


医者は、CTを撮っても

どこを調べても、原因が解らないと言った

治療の施しようがなかったのだ

ただ、命を繋ぐ為だけの…
延命処理だった

さっき、エレベーターで逢った男は、警察の人で

深い緑のシートに父はくるまれ…
連れて行かれた

そう言えば

あたしが救急入り口付近で見かけた、パトカーがそうだったのか…

兄はパトカーで、家に向かった。

あたしと娘

彼氏のヒデと

神戸に住む父の姉

すぐ下の近所に住む弟

奈良に住む、一番下の弟が病院に残された

あたしと、娘は

神妙な場面になると

つい、面白い物を見付けてしまう。
わざとでは無いし

今、決して面白い!って思う場合では無いが…

嫌、これは久川家の遺伝である

父は、生前とても愉快な人だった。

茶目っ気があり、良くあたし達は父のイタズラに
まんまとひっかかっていた(笑)

父が、シートにくるまれ連れて行かれ

兄は警察に連行された

あたしは、父が病院に運ばれた時、身に付けていた、衣服やギブスなど
透明のごみ袋に入れられ手渡された。

救命時に、破かれた、黒いトレーナー

あたしが最後に買い足した、リーバイスのスエット…

父の右手に付けられていたギブスは半分に切られていた

あたしは、それを胸に抱きしめ

ソファーに座り込んだ。

前から、父のすぐ下の弟のおっちゃんが来た。

『あんな…9時過ぎに、あかんかってん…』

ふと、顔をあげると

あたしと娘の前に立っている

おっちゃんのズボンのチャックは

全開だった…

娘…

早くも気付き

顔を下に背けた。

さっきから、このファミリーは

どうかしている…

兄は、涙より先に

鼻水をぶっ飛ばした

あたしと娘は
その泣き方に言葉を失った。


いや…

そりゃ、かっこよくなど…

泣けやしません


だけど、ありのままで泣けている兄に
ちょっと、ボー然としました★

娘も、目が点になってます。

あたしがさらっと
『おっちゃん、チャック開いてんで』
と、言うべきか…

『社会の窓が開いてますょ』
と、おじさん世代的に言うべきか…

『おっちゃん!チャック、チャック』
と短縮形で言うべきか…

それとも、誰かが気づくのを待つべき??


いいや、この際、本人が気づくまで
見てみぬフリをぶっかますか…

父の死を目の当たりにしているあたしが

冷静にそんな事を考えている。

回りを見渡したら、あたし達の前に、仁王立ちしているチャック全開のおっちゃんを直視出来るのは

あたしと娘、彼氏のヒデしかいなかった…

あぁ…

もぅ

無理


年頃の娘が、おっちゃんに指摘出来る訳が無い。

ましてや、彼氏は到底言えまい…

ここは、親族1毒舌で

ちゃらけたあたしが、このキャラを使って

言うしかないか…

『おっちゃん』


決心して

呼んだ瞬間

『兄貴、チャック全開やぞ』

父の一番下の弟が指摘★

『あっ、ほんまや』

急いでチャックをあげると

また神妙な顔に戻った。


お父さん…

ごめん★


あたし、ちょっとうけた★

回りを見渡したら
娘もホッとしていた。

彼氏は、テンパって気づいていなかった。


父の姉が口火を切る。

『あさか、この人は誰?』

あたしの彼氏の事である。

身内とは、十数年逢っていなかった。

元旦那とは、明らかに違う男を連れて

父の臨終に駆けつけたのだ。

まぁ、こうゆう話しにはなる。

彼とは、娘を交えてお付き合いをして来た。

最初は、父は猛反対していた。

孫の心配をしていたのだ。

三年前に、父が倒れた際、彼が父を見舞ってくれ

父は、死ぬ前まで
『ヒデちゃん、わしはもうあかんわぁ
あさかと、孫の嫁入りを頼むわ…』
と、しきりに言っていた。

後で話すが、あたしは、このヒデとは父が死んだら別れようと思っていた。

なので、父の再期に、身内に逢わせる事になった事は
あたしの誤算だった。

考える所はあるが…

父が一番に気にかけていた事

なので、みんなに説明をした。

生前、父には逢っていた事。

父が認めてくれていた事を。

その間

ずっと、父のすぐ下の弟(チャック全開)は

鼻をほじっていた。

これも、久川家の遺伝なのか…

緊張状態にあると

なぜか、鼻をほじるおっちゃんが多い

父もそうだった。

ずっと、ずっと

鼻をほじっている。

いきなり

おっちゃんは、鼻血を出した。

全く、世話のやける人である。

『わし…鼻血出てる…なんでやろ…』

姉が心配する

『どうしたんや、あんたぁ疲れとるんちゃうか?』


『兄貴、大丈夫か?』


(さっきから、鼻くそほじりすぎやで…ただ、ほじりすぎなだけやろ…)


あたしは心でツッコミを入れた。


『こわいわぁ…わし、何もしてないのになぁ』


いや、凄い鼻いじってたし…

おっちゃんの鼻血が止まるのをひたすら待ち

病院に、お世話になった挨拶を済ませると、現場検証が終わるまで

どうするかの話しになった。

再会

11日、父危篤の電話の後


あたしは、直ぐに職場に電話した

父が亡くなったので、暫く休みます☆

心肺停止←これで、父は既に死んでいると思い込んだ。

その後、ケアマネージャーに電話


『父がもうダメなようなので、老人ホームはキャンセルして下さい!』

多分、ケアマネージャーに対しての精一杯の嫌味だと思う。

もう少し、早ければ

父は、生きていると思う。


ケアマネージャーは、直ぐに病院にかけつけた。

あたしは、土曜日…

銀行に預金はあったが、田舎の為、夕方5時でATMは、閉まっていた。

お財布には、数百円しかなかった。

貸してくれるような身内は、高知にはいない。

うろうろするだけ…


あたしには、付き合い出して、8年目になる彼氏がいる。

彼は兵庫県にいる。

遠距離恋愛だ。

父の介護に出向くたび、彼も交えて、父と良く話した。

思わず彼に電話する

『お父さんが死んだ』


彼に、事情を説明した。

彼は、今から高知に迎えに行くから、一緒にまた大阪に行こうと言った。

銀行でお金が引けない今、あたしは彼に頼るしかなかった。

朝、9時まで待って、朝イチの飛行機に乗ろうが、何にしようが

間に合う訳ではなかったが

1分でも早く

飛んで行きたい。

兄から、救急車の中で息を吹き返したと連絡があった。

どうにか、間に合うかも知れない。

医者は、心臓が止まりかけたら、電気でショックを与える方法をもちいても良いかと聞いた。

どんな方法でも、いいから…

死なんといて!!

お金なら、なんぼかかってもいいから

お父さんを助けて!!

そう叫んだ

あたしは、まだ親孝行をしていない

寝たきりでもいい

意識は戻る事は無いと言われたが

意識が無くても


ただ、生きて

息をしてくれたら…


あたしは良かった。


急いだが


あたしが、大阪の父の病院に着いたのは

12日、日曜日の朝11時を回っていた。


エレベーターのボタンを何回も何回も押した

階段の方が早いのか?
でも7回辺りだ

大人しく

エレベーターを待った。

神棚から持って来た、お札を胸に挟んで

早く、早く

娘と


そこに、1人の中年男性が、深い緑のシートらしき物を持って、同じくエレベーターを待っていた

あたしと、娘をまるで、観察するようにジロッと真っ直ぐに見る。

あたしは、父に似て負けず嫌いで

短気だ。


なんやねん!!

にらみ返した


チラ見する中年男性に

イライラしたが

お前などかまってられるか!!

エレベーターが開いた瞬間

兄を探したが、どこにもいない。

あたしは、居てもたってもいられず

ナースセンターに駆け込む

『昨日、救急で運ばれた、久川和雄ですけど逢わせて下さい』

『久川さん、ちょっと待って下さい…』


『待てません、父なんです、逢わせて下さい!逢います』
集中治療室のドアが開いていて

深い緑のカバーを広げる人影が


さっき、エレベーターで一緒だった
中年男性だ


あたしは、その時

察した。


父は死んだんだと

この人は、葬儀屋なんだと


看護婦さんが、その男に

『久川さんの娘さんが来られたので、逢って貰ってもいいですか?』

と聞いていた。

あたしはムカついた。

何で、葬儀屋ごときに

逢っていいか、悪いか聞く事があるのか?と


あたしは、構わず入っていった

看護婦さんは

『逢っても構わないそうです…』

と、ベッドのカーテンを開けた。


そこには


変わり果てた


父が寝ていた。


父は、裸で


顎から首にかけて

縫われたような後があり


すっかり血の気が引いた顔になっていた。

父の体を触ると

もう、とても冷たかった。


『お父さん!!お父さん!!お父さん!!なんで!?お父さん』

『寂しい思いをさせてごめんよ

そんなに、老人ホームが嫌やったんかぁ…?
ごめん、ごめんよ
あたしは、1日でもお父さんに長生きして欲しかったんよ』

お父さんを揺さぶった。

お父さん!!

お父さん!!


頭を撫でた


娘が後ろで、すすり泣く


嘆くあたしに

看護婦さんが

『本人さんも、凄く頑張ってたんですよ』

あたしは

うなづきながら、看護婦さんを見た

看護婦さんも泣いていた。

『お父さん、一緒に帰ろうね
あたしと一緒に帰ろう』

カーテンの向こう側で、エレベーターの中でにらみ合いになった男の鼻をすする音が聞こえた。

看護婦さんが言った。

『これから、警察にお父さんは連れて行かれるんです』


『なんで??』

『色々と調べなければならないので…』

『なら、あたしも行きます。一緒に行きます』

『それは、ダメなんです…ご自宅で待ってあげて下さい…』

あたしと娘は、外に出された

兄がどこからか、出て来た

鼻水を垂らしながら

『俺がもっと、早くに気づいとったら…お父さんは…ごめんな』


あたしは

兄に対して

言いたいことは、山あったが

ぐっと、こらえた。

『誰が悪い訳でも、誰のせいでも無いわえ。気にしたらあかん』

あたしは、泣き崩れたかったが

父が何で死んだのか?

何で、警察に連れて行かれるのかが解らなかった。

今から、家には入ったらあかんから

ちょっと待っててと言われ

兄だけ、警察の人と一緒に家に帰った。

兄が、第一発見者と言う事

救急で、病院に運ばれて24時間内に亡くなった場合は
変死とみなされ、現場検証される事を初めて知った。

あたしが、最後に父の体に触れ

言葉をかけている間

兄や、父の集まっていた兄弟は
別室で軽く、事情聴衆されていたようだった。