雪の結晶が指先で消えた。
空からヒラヒラと静かに舞い降りるそれは
辺りの音を吸い込み
音のない世界を作り出し
まるで僕ひとりの世界。
広げた手のひらの指先で
何かを言いたげに解けていった。
触れてはいけない
眺めるだけにすれば良かった。
僕の体温で・・・
冷たくなった指先の
ほんの僅かな体温で
六角形は
あっという間に
形が崩れ
雫となって
落ちていった。
涙の粒は温かく
冷えた頬に心地よい。
美しく見えた結晶は
冷たい雫
強いと思っていた心は
温かい粒となり
二つ同時に僕の体を伝っていく
もっともっとこの指先が
冷えていたなら
美しいまま僕の手に置いておけたのかな
僕がもっと冷たかったら
君はそばにいてくれたのかな
もっとキミ以外には非情になれたなら
キミのことだけ考えていたら
今も隣にキミはいたのかな
ダメだよね。
僕には体温がある
どんなに君に寄り添おうとしても
君をそのまま美しい姿でなんて
いさせてあげられないよ。
言いたげだった言葉が聞こえた。
『あなたがいけないのよ 私に触れたから。
あなたが美しい私を壊してしまった』
キミが空から僕に近ずいて来たんだろう?
美しいから触れたくなった僕がいけないの?
触れずはいられないほど、美しかったんだ。
冷たい君の心を
僕のほんのわずかな体温で
温めてあげられたなら
君も温かい粒となって
僕の頬を伝わって
心通わすことができたかな
解けてもキミは冷たいままの綺麗な雫
失念していたよ、
僕は寒いのも冷たいのも苦手だったよ。
微かな風にヒラヒラと舞い、
遠い空から僕に向かって
降りてきたキレイな結晶。
冷たい結晶。
思わず手を出してしまったけど、
僕は冷たいのは苦手だったんだ。
でも、キレイだったよ。
解かしてしまった僕に
言いたいだけの文句を言って
気が済んだかい。
冷たいのが苦手な僕が
触れてはいけなかったんだ。
キミに奪われた音を取り戻し
街はにわかに現実に戻る。
夢のように美しく
悪夢のように傷つき
キミの作った世界が壊れ
僕は僕を取り戻した。