神戸の三大神社のひとつ「長田神社」は、日本書紀により神功皇后以来の歴史を持つ名社と云われています。
そんな長い歴史のある長田神社の「古式追儺式(こしきついなしき)」は、室町時代(約650年程前)から現在と同じ形で行なわれていたとされ、古い形態を今日に伝える貴重な神事として、鬼面並び行事一式が昭和45年兵庫県の重要無形民俗文化財に指定されました。
今年はコロナ禍で3年ぶりの実施となりました。
節分の翌日は立春で昔は一年の始まりとされ、追儺式はいわば大みそかに当たる節分に実施される大祓の行事です。
しかし長田神社の追儺式は、他と異なり鬼を追い払うのではなく、神々のお使いとして鬼を迎え、鬼は神々の代わりに全ての災いを祓い清めて、清々しい良い年になることを祈り踊ります。
しかも長田神社の氏子(旧長田村)が奉仕して、神事を執り行う形態が現在まで引き継がれ、地域の住民に親しまれている神事という点において、国内でも稀な神事ではないかと思います。
そんな「古式追儺式」を初めて撮影してきました。
神事は12時過ぎに始まり、6時間以上続きます。
節分とはいえまだ寒い半日、境内の一か所にずっと立ったまま、ひたすら撮影すること2,000枚以上。
体力と気力の限界に挑戦でしたが、あまりの素晴らしさに感動してしまいました。
順番に神事の流れと写真をご紹介します。
・練りこみ(12時過ぎ)
法螺貝が吹かれ、神職、奉賛会長、法螺貝の囃手、肝煎と呼ばれる世話人、太刀役と呼ばれる5人の凛々しい少年たち、
異様な出で立ちの鬼役が、左右に足を繰り出す大名行列のような独特の歩き方で拝殿に進みます。
頭に白い布(鬼になった時、褌にする白木綿)を被って、いかにも異形の姿で行進します。
・節分祭(13時~13時半)
拝殿では祝詞や舞が奉じられています。
拝殿入口の右の柱には太陽を表わす鏡餅とシキミが飾られています。
ちなみに左の柱の鏡餅は月を表わし、シキミを下向き(沈む方向)に飾っています。
また拝殿の軒下に、餅とシキミをくくりつけた枝が64本下げられています。
これは、昔の日本の64州を表わし、小さな神戸の長田村の神事が日本全体の大祓をしていたことになります。
・追儺式神事(14時~)
鬼は7匹登場します。(人ではないので匹と数えます)
最初は「一番太郎鬼」(鬼の家族の長男)です。
藁で作った松明を振りながら、舞台を踏み鳴らし、蹲踞(そんきょ)の姿勢や松明を高く掲げて静止します。
かなりハードな所作で、ゆっくり舞台の上手から下手まで移動して、退出します。
そして、なんとこの演舞を3回繰り返します。
早くも周囲の観客から、退屈とか説明や案内がないとか、不満の声が上がりますが、何でもせっかちにすぐ快楽を求める現代人の病気かもしれません。
このゆったりとした時間の流れに身を任せることがこの神事のポイントだろうな、と思います。
この鬼たちは、前日から鬼宿に泊まって井戸水を何度もかぶって体を清め、当日朝8時に須磨海岸で7回の水行をします。
一番太郎鬼役の方は18回目のご奉仕とか。
その熱意というか郷土愛というか、凄いことですね!
続いて全身赤い衣装の赤鬼の登場です。
長男よりも動きが軽やかで、キメの型を多用し、まるで歌舞伎のようです。
赤鬼が演技中に、姥(うば)鬼・呆助(ほうすけ)鬼も登場し、3匹が舞台で踊ります。
さらに青鬼が登場します。
もっとも動きが大きくて激しく、魅力的です。
さらに一番太郎も登場し、5匹が勢ぞろいです。
16時半頃になって、徐々に日が傾いてきました。
本殿に夕日が当たり、輝いています。
いよいよ主役の「餅割鬼」と「尻くじり鬼」の登場です。
鬼の面がその様相を大きく変えてきます。
まず角が三本の「餅割鬼」です。写っていませんが左手に餅を割る斧(木製)を持っています。
次に「尻くじり鬼」です。
腰に槌、右手に松明、左手に大矛を持ち登場ですが、私は特にその面の美しさに惹かれました。
この2匹は、いままでの鬼と少し異なるステップを踏み、よりダイナミックな動きになります。
ここは顔見世でしょうか。
この後、ふたたび赤鬼以下の5匹が登場します。
・太刀 渡し
各鬼が太刀役(小学生)より太刀を受取り、右手に松明、太刀を左肩に演舞します。
鬼は太刀で凶事を切り捨て、天地を祓い、国土を清めます。
・太刀収め
鬼が太刀役に太刀を返し、太刀役が鞘にパチンと収め、鬼が退場します。
・御礼参り
5匹の鬼が、全ての災いを祓い清めることができた御礼の演舞を行います。(私の解釈ですが)
この段階で、奉賛会の全員と鬼と観客が一体となった高揚感が生まれています。
これぞ、神事!
なんとか空気感を写真に撮れたとおもいますが、いかがでしょうか?
いよいよクライマックス。
「餅割鬼」と「尻くじり鬼」が再度登場します。
既に日没を過ぎ、あたりは幽玄な世界になってきました。
餅を割る所作が、本当にゆったりと演舞され、時折今かと思わせる所作をしては、また繰り返します。
いよいよ餅を割ろうとしています。
このあと、いきなり斧を振り上げて、一閃の所作!
あっという間に、肝煎が鬼の両脇を担ぎ、一気に退場して、6時間半の神事は見事に執り行われました。
こうして、全ての凶事を祓い、清々しい立春(新年)を迎えられることとなりました。
何という素晴らしさでしょうか。
クライマックスまで5時間もかけて観客を引きずり込み、一気にエンディングという、まことに見事な舞台。
そして最後まで演じきった鬼たちの深い郷土愛を感じ、感動しました。
多くの観客が最後まで見入り、拍手し、神事の無事を祝いました。
奉賛会長の挨拶では、目にうっすらと光るものが写真に写りました。
以上