梨木香歩さんの本を読んでいた。

私が最も好きで尊敬する作家さん。

はじめて読んだのは
『からくりからくさ』という小説で、
私はまだ20歳そこそこだったはず。

丁寧な日常の間に垣間見える
独特の闇みたいなものに
不思議に惹かれた。

当時はそこまで自覚してなくて
ただその表面的な世界観の美しさに
ひたすら浸かっているつもり
だったのだけど。


それから他にもいくつか小説を読んだ。
一番有名なのは『西の魔女が死んだ』かな。

あれも一見すると
かわいらしく美しい話だけど、
実はそんなんじゃなくて
もっとダサくてどろどろして
人間臭いにもほどがあるような
どうしようもない話だとも思う。

そういうことを思うようになったのは
ここ数年で、
梨木さんのエッセイ
『春になったら苺を摘みに』を読んだのが
きっかけだった。

それまで梨木さんの童話や小説しか
読んでなかった私は
彼女のことを
何気ない日常の中の
きらめきを見ている人だと
思い込んでいた。

だけどエッセイを読んで、
全然違うということがわかった。

彼女の根底にあるものは、
女なら誰でも憧れるような
いわゆる丁寧な日常とか
そんなものとはかけ離れている、と思った。

とても現実的で
多角的な視点を持つ人で、
単純に何かを慈しむとか
丁寧に暮らすとか
そういうことを言いたいわけじゃない。
その奥に
闇も狂気も含めた人間の本質を
見出だそうとする
とても冷静な姿勢を感じた。

ただ、それを
とても柔らかい言葉でふんわりと
女性的にやろうとするから、
勘違いしてしまう人が多いのだ、きっと。

入り口の印象と中身がまるで違うから
途中でびっくりする。
奥に進めば進むほど
そのギャップは激しくなる。

そこに耐えられなくて
奥に進むのをやめる人もいるだろう。
ある程度表面的な読み方をしても
もちろん楽しく読めるし、
それなりの解釈はできるだろうな。

でも、もったいない。
彼女の本質はそこじゃないのに、と
私は勝手に思ってしまっている。



私の趣味嗜好が
ババくさいのかもしれないけど、
最近の小説はエンタメ性が高いと思う。
ものすごく映像的というか刹那的というか、
一度読んで感動して、はい終わり、
なものが多い気がしていて。

一つ一つの言葉がとにかく華美で軽い。
インスタントなわかりやすい感動。
とにかく泣ける!みたいなやつ。


読むたびに
その言葉の奥に潜むものに気付くような、
静かに心を振るわせて
細胞の内側から
何かを変容させてしまうような、
そんな文章を書く作家さんが
あまりいない気がする。

いや、多分いるんだろうけど、
そういう作品は一般受けしないから、
出版に至らなかったり
あまり売れなかったりするんだと思う。

時代の流れといえばそれまでだけど。



何だか話が逸れまくったが。



今回読んだのは
『やがて満ちてくる光の』と、
『私たちの星で』。

後者は師岡カリーマ・エルサムニーさんという方との往復書簡。

どちらもとてもおもしろくて、
ハッとする文章を読むたびに
ノートに書き写して、
感じたことを書き留めていたら、
なかなかページが進まなかった。

本当によく見ているし
素直に感じて
しっかり考える人だと思った。

感性も素晴らしいけれど
それを上っ面の感動にととめず
そこにある歴史や人の思いや
全てをひっくるめて感じて考えるから、
こんなにも深く
世界を捉えることができるんだろうな。

着眼点もすごく好きで
とにかく大好きだ。


本の感想を書きたいんだけど、
エッセイの方はテーマが多岐に渡るので
いまいちまとまらない。

往復書簡の本は、
もう一人の著者である師岡さんが
エジプト育ちなことから
イスラムの歴史や文化についての話題が
多かったのだけど、
私が知らなかったことだらけで
本当におもしろかった。

それでますます興味がわいてきて、
今、師岡さんの著書
『イスラームから考える』を読んでいる。

こちらもおもしろい。とても。

本を読む、という楽しみを知っている自分は
本当に幸せだなぁと、思う。