意識を手放して
また目が覚めたとき
嬉しそうな顔
安堵の顔
そして
泣きそうな顔をみたんだ………。
時間の経過と共に
自分の身体についていたチューブはだいぶ外れた。
ヤツらは「観察だ」と言っては
よく代わる代わる来る。
[ver 花房]
花房が来た。
いや、来て…いた。
「…んっ……。」
「すみません。起こしてしまいましたか。」
目を開けると
俺の肩まで毛布をかけている花房が見えた。
「いや、悪い…寝てた。」
「何おっしゃってるんですか。先生はいま寝ていて構わないんですよ。」
「あぁ。まぁ…。なんだか妙に眠くてな。」
「微熱があるようですから、少しお身体が辛いのかもしれませんね。氷枕お持ちしますか?」
「頼む。」
微熱か、全然気付かなかった。
というか、検温の記憶がない。
長年の勘……か。
「はい、どうぞ。」
「すまない。」
「そういえば、この毛布持ってきてくれたのか?」
「はい。手足が冷たくなっていたので、寒いのではないかと思って。」
「いつの間に?」
「えっ?先生は眠っていらっしゃいましたから。」
「あぁ……。さすがだな。」
「そうですか?」
長年、患者の言葉なき訴えを
聴いてきただけはある。
当然のように
さりげない援助が出来る。
俺も病身になって
その価値が今まで以上に分かった。
「ありがとうな。」
「えっ?」
「色々と…支えてもらいっぱなしだと思って。」
「私はたいしたことは何もしていません。師長として当然のことをしてきただけです。」
「その“当然”があったから、やってこれたんだ。」
「先生の…お役に立てていたのなら、嬉しいです。」
だから、花房……。
お前には……。
「あの、速水先生。」
「ん?」
「ちょっと言いにくいのですが……。」
「どうした?」
「私…速水先生が辞表を出された時、私もここを辞めてどこまでも先生についていこうと思っていました。」
「……………。」
「でも、やっぱり私はここに残ることにしました。先生が築いてきた救命で生きて、いつか先生とまた会って仕事をする事があった際に、ついていけるように。」
師長の作り笑顔。
いつものナイチンゲール表情の唇が…少し震えていた。
「そうか。」
「けれども、他のことで何か私に出来ることがあれば、今まで通り言ってください。今も、これからも。」
「わかった。」
「まずは、ご自分のお身体の事を考えてくださいね。」
「あぁ。」
「あと………。」
「花房。」
「はい。」
カチャリ。
耳元で氷が鳴る。
「この氷枕、ちょうどいい堅さで気持ちがいい。」
「………はい。」
「熱のこと、とりあえず佐藤ちゃんにだけに言ってくれ。」
「わかりました。」
「あと……。」
「速水先生。少しお休みになりますか?」
「……あぁ、そうする。」
無意識にわかる。
未来への確証のなさ。
だから……
俺は
私は
「一緒にいて」
と言えなかった。