『速水病室』の連載を
ご覧いただきありがとうございます。

綾 順早(あや かずさ)と申します。

北の地に住み、医療系ドラマが好きです。
よろしくお願いします。


さて
ここまで6編。
次回はいよいよ「白鳥編」です。


えー……

花房編はドラマに沿う結末にしてみました。

原作も映画も
それぞれに好きですが

ドラマには「悪性リンパ腫」という病が登場してますので

確証のない未来を考え
(考えようとしなくても、無意識に経験や知識が意識させるのですが)
相手の負担や傷つけたくないという想いが
告白を躊躇わせたという結末にしてみました。


ドラマ版の主題歌。
あれは花房視点というだけではなく
特にあの2番の歌詞は、チームメンバーのそれぞれにとって

“あなたを愛し、心配している人物はいるのよ”

という解釈もしていて
それを各sideに織り込んでみました。

少しでも伝わっていれば幸いです。



あと
当方「ナリメ」がとても好きです。

興味のある方、ご一報ください。



また、お会いしましょう。



かずさ


意識を手放して

また目が覚めたとき

嬉しそうな顔
安堵の顔

そして
泣きそうな顔をみたんだ………。





時間の経過と共に
自分の身体についていたチューブはだいぶ外れた。


ヤツらは「観察だ」と言っては
よく代わる代わる来る。



[ver 花房]


花房が来た。

いや、来て…いた。


「…んっ……。」
「すみません。起こしてしまいましたか。」

目を開けると
俺の肩まで毛布をかけている花房が見えた。

「いや、悪い…寝てた。」
「何おっしゃってるんですか。先生はいま寝ていて構わないんですよ。」
「あぁ。まぁ…。なんだか妙に眠くてな。」
「微熱があるようですから、少しお身体が辛いのかもしれませんね。氷枕お持ちしますか?」
「頼む。」

微熱か、全然気付かなかった。
というか、検温の記憶がない。

長年の勘……か。

「はい、どうぞ。」
「すまない。」
「そういえば、この毛布持ってきてくれたのか?」
「はい。手足が冷たくなっていたので、寒いのではないかと思って。」
「いつの間に?」
「えっ?先生は眠っていらっしゃいましたから。」
「あぁ……。さすがだな。」
「そうですか?」

長年、患者の言葉なき訴えを
聴いてきただけはある。

当然のように
さりげない援助が出来る。

俺も病身になって
その価値が今まで以上に分かった。

「ありがとうな。」
「えっ?」
「色々と…支えてもらいっぱなしだと思って。」
「私はたいしたことは何もしていません。師長として当然のことをしてきただけです。」
「その“当然”があったから、やってこれたんだ。」
「先生の…お役に立てていたのなら、嬉しいです。」

だから、花房……。

お前には……。

「あの、速水先生。」
「ん?」
「ちょっと言いにくいのですが……。」
「どうした?」
「私…速水先生が辞表を出された時、私もここを辞めてどこまでも先生についていこうと思っていました。」
「……………。」
「でも、やっぱり私はここに残ることにしました。先生が築いてきた救命で生きて、いつか先生とまた会って仕事をする事があった際に、ついていけるように。」

師長の作り笑顔。
いつものナイチンゲール表情の唇が…少し震えていた。

「そうか。」
「けれども、他のことで何か私に出来ることがあれば、今まで通り言ってください。今も、これからも。」
「わかった。」
「まずは、ご自分のお身体の事を考えてくださいね。」
「あぁ。」
「あと………。」
「花房。」
「はい。」

カチャリ。
耳元で氷が鳴る。

「この氷枕、ちょうどいい堅さで気持ちがいい。」
「………はい。」
「熱のこと、とりあえず佐藤ちゃんにだけに言ってくれ。」
「わかりました。」
「あと……。」
「速水先生。少しお休みになりますか?」
「……あぁ、そうする。」


無意識にわかる。
未来への確証のなさ。

だから……

俺は

私は



「一緒にいて」



と言えなかった。






意識を手放して

また目が覚めたとき
嬉しそうな顔
安堵の顔

そして
泣きそうな顔をみたんだ………。





時間の経過と共に
自分の身体についていたチューブはだいぶ外れた。


ヤツらは「観察だ」と言っては
よく代わる代わる来る。



[ver 研修医]


研修医たちが来た。

滝沢「失礼します。」
永山「先生、お加減いかがですか?」
浅野「いま、お話ししてもよろしいですか?」

口々に言って入ってきた。
いつになく真面目な顔で。

「あぁ大丈夫だ。3人揃ってどうした?」

滝沢「僕たち今日で救命での研修が終わりなので、先生に挨拶にきました。」

「そうか。悪いな、最後に俺がこんな姿で。」

永山「いえ。あっ、無理に起きあがらなくていいですよ。」

「ははっ。もう心配されるほどじゃない。」

浅野「短い間でしたが、本当にお世話になりました。」

水色のユニホームが一斉に頭を下げる。
水色の病衣の俺が受ける。
なんだか…違和感あるな。

「次はどこに行くんだ?」

滝沢「脳外です。」
浅野「消化器を内科と外科で行きます。」
永山「僕は小児科です。」

まじまじと3人を見つめて
一瞬ためらったが、そのままを言うことにした。

「次の研修先が、個々に一番合ってる気がするのは気のせいか?」

永山「えっ…僕は…実は救命に……。」
滝沢「はい。元々外科系に興味があったのですが、長谷川先生を見て脳外志望になりました。」
浅野「僕は、色んな科を回って様々な経験をしたいです。外科もいいけど、内科も深いかなと考えてます。」

「滝沢、お前は周囲の期待に負けずに技術を磨け。いつか救命から声がかかるくらいにな。」
滝沢「はい!その日を目指して頑張ります。」

「浅野、お前は人一倍勉強熱心だ。たくさんの知識をつけて臨床例を積め。頼られる医者になれるはずだ。」
浅野「はい!もっと知識と経験を積みます。」

「そして永山、救命は直入局がすべてじゃない。自信の専門を持ってからでも遅くない。小児科での経験が必ずお前の役に立つ。」
永山「はい!小児にも一生懸命取り組みます。」


「色んな事に巻き込ませて悪かったな。それじゃあ……。」

滝沢「あの、速水先生。」

「ん?」

永山「ちょっと……言いにくいんですが…。」

「どうした?」

浅野「えっと、僕たちここでとても大事なことを学びました。誰でもない速水先生から。先生の医療への姿勢、先生の事例、すべてが生きた勉強でした。」
永山「これからどんな経験をしても忘れません。」
滝沢「本当にありがとうございました。」

再び水色が頭を下げる。
そして、俺を見舞う言葉と共に去って行った。

俺もきっと、
お前ら3人の研修医の事は忘れないと思う。
いつか、どこかで再び会う日が楽しみだな。

次世代の救い手たち。