冤(えん)罪被害者の救出のために働く
浜田寿美男氏の著書。
専門は、発達心理学だ。
甲山(かぶとやま)事件と呼ばれる幼児殺人事件で、
無実の被疑者の疑いを晴らすために尽力した。
検察側の出した証言は、知的障がい児らの残したものだった。
それをきっかけにさまざまな冤罪事件に引き込まれた。
その一つが「帝銀事件」。1948年1月のこと。
被疑者は、平沢貞通さん(故人)。
取り調べでは、自白、否認、自白と激しく変転をし
決定的な証拠がないままに最高裁で死刑が確定したが、
執行はされないままに、平沢さんは90代で獄死された。
しかし、19回の再審請求が繰り返されて、皆却下されてきた。
再審が、「開かずの扉」と言われる所以である。
20回目の再審請求がなされるようとしている。
無実の人が、やっていない殺人を「やりました」と
どうしてそんな虚偽自白をしてしまうのか。
この本を読んで、その理屈を初めて納得できた。
全ての自由を奪われて「お前が犯人だ」と決めつけられ続けると、
苦しくて苦しくて、後先考えずに、「私がやりました」と言ってしまう。
しかし、やっていない犯罪を正しく語れるわけがない。
それで、不自然な「供述」が出来上がる。
根拠のない思い込み(証拠のない確信)が、冤罪被害者を生む。
しかも裁判官さえ、その被害者心理に気づいていない。
真犯人であれば、自白はもちろん有罪の証拠の一つとなる。
しかし「シロ」であるならば、その自白の過程にこそ
「冤罪」の証拠が見出せる、と浜田さんは説く。
検事さんと裁判官にこそ読んでいただきたい本である。
ミネルヴァ書房