築30年になる家に住んでいる。亡き父が建ててくれたものだ。

当時は田舎に住むのが嫌で、首都圏で暮らしたり米国に行ったりして、

理由をつけては帰れないと意地を張っていた。

「家を建てたから」と言われ

「なんて余計なことを」と腹を立てた。

 どこか他に生きる場所があるはずと思い込んでいたが、

結局は故郷に帰らざるを得なくなった。

それが、今はここが何とも居心地がいい。

このような環境を整えてくれた父に

感謝の一言さえ発していなかったことを、

今更のように思い出した。

 3人の子供はここで育ち、巣立った。

孫はいるけれど、みな海外だ。

空いたスペースを生かそうと、15年ほど前から養育里親を始めた。

0歳から10代まで、これまでに十数人の子が来てくれた。

妻には苦労をかけているが、本来なら

空の巣になっていておかしくないのに、

今も子どもの声がうるさいほど聞こえる。

 これも考えれば住む家があっての話だ。

30年遅かったけど、

父ちゃん、言いそびれた感謝を今伝えます。

 

毎日新聞 みんなの広場 

2022年11月28日掲載