信託関係や相続の業務をやっていると、聞かれることがあります。それは、痴呆症の方について、財産管理、承継のために、遺言や信託手続きをしようとする場合に大丈夫なんですか、可能ですか、ということです。一概に結論を出せる問題ではないのですがみていきましょう。

 

 まずいうのは、法律家からみた意思能力が最も決定的な判断になる、ということです。その次に、法律家の判断も相対的であるということと、対象者の状況も一定ではない、ということです。

 

 最終的に誰がみても、意思能力がないのがわかるようならば、遺言も信託契約もその効力は当然に無効になりますが、そうでなければ、あきらめずに、法律家と医者等の判断を聞くということです。信託にとても詳しい法律家に聞いたところ、補佐人をつける程度であれば一般論として信託行為をする意思能力があるということを言っていました。

 

 信託契約についての交渉手続きでの判例はそれほど多くはありません。それなので、遺言の判例をいくつとりあげて、そこから、どうなるかをある程度予測することしか今のところやりようがないです。

 

 では参考になりそうな判例を掲げてみます。

①   手を添えてもらって作成された遺言は無効だとして提起された訴訟についての判決:原告を敗訴としています。簡単に言うと、この判決では遺言の内容を、発声して、一言、一言手を添えてもらって遺言が書かれていて、意思能力はあるとの判断が遺言の無効判決を認めなかったというものです。

②   自著不能な状態にあり署名できない遺言は無効だとして提起された訴訟についての判決:病状からして、無理に自著させようとすると、より状態が悪化するとして、自著させなかった遺言は無効だという訴えは認められず、遺言の効力は有効であるとしています。

③   精神分裂病の患者がなした遺言の効力についての訴訟に関する判決について:精神分裂病で精神的能力は確かに低下しているように思われるものの、比較的単純な遺言であればなしうるものとするのが相当だとして、原告敗訴で、当該遺言の能力を認め、有効だとしています。

④   遺言を有効になしうるための精神的能力を書いているとして遺言無効の訴訟提起についての判決:脳溢血で倒れ、脳動脈硬化症に随伴して脳梗塞などで周囲の状況に興味を示さず、意思も欠如しているなどしてその結便は無効だとしても原告勝訴としています。

 

これらの判決から鑑みると、いや、推論すれば、肉体的疾患の場合は各々の状況

も考慮しないといけないですが、遺言能力はあるものと判示される場合が少なくないということです。さらに、精神分裂病であっても、比較的単純な遺言であれば、なしうるものと判示されている場合もあるということです。ただし、脳の能力がだいぶ低下している場合には、遺言の効力は認められないということになりそうです。

 

それなので、信託契約でも、肉体的怪我や、軽度の痴呆症であれば、契約能力はあるものと概ね考えることができると考えられると思われます。ただ、これも個々の状況によりますので、最初に述べたように法律家等の判断が前提となるということを頭にいれて、早めの対応が大切だということになってきます。信託にとても詳しい法律家に聞いたところ、補佐人をつける程度であれば一般論として信託行為をする意思能力があるということを言っていましたので、一つの指標としては分かりやすいと思います。