土佐久礼はカツオの一本釣り漁の基地として知られた漁港の町で、それを主題とした青柳裕介作の漫画『土佐の一本釣り』の舞台である。駅からすぐに漁師町が広がり中心には市場、入江と浜のそばに3つの漁港があるなど、こちらもミニ小京都中村のようなコンパクトな立地の漁師町である。

『土佐の一本釣り』はビッグコミックに連載されていた古典といえる漫画で、漁師の純平と漁師の娘の八千代との、若い二人の成長と恋愛を描いた青春群像。漁師の親方や先輩、町の人たちに見守られながら進んでいくストーリーが、時に厳しく時に優しく読む者の心に響く名作である。子供ながらいごっそう気質の純平に振り回されていた箱入り娘の八千代が、結婚後は一転してはちきんキャラになり旦那を尻に敷く展開もまた、面白い。

久礼の町はまさにその舞台で、カツオなど久礼漁港で水揚げされた魚介を扱うアーケードの久礼大正市場、漁師の鎮守でカツオの絵馬が飾られた久礼八幡宮をはじめ、防波堤沿いに並ぶ漁師町の民家や路地のたたずまいが、漫画の世界そのもの。青柳氏は土佐山田の方なのだが、本作を執筆するため久礼に部屋を借りて漁師たちと日々飲んだりふれあって、作品の世界観を創り上げたそうだ。

ゆかりの見どころもいくつかあり、大正市場には純平と八千代が描かれたバナーが掛かり、市街最古の酒蔵の西岡酒造店では「純平」との銘柄の酒のほか、酒造資料コーナーに作品の原画の複製や青柳氏が描いた観光ポスターなどが。海の近くの二つの津波避難タワーにはそれぞれ純平タワー・八千代タワーと名付けられているのも凄い。

中村も久礼も首都圏からだと相当な距離と行きづらさがある地だが、此度の訪問で愛着がより湧いてきた。また足を伸ばしてみましょう。