水が良いとの枕詞がつく町は酒処そば処と続き、そこへ雨が少なく日照時間が長いが加われば、小麦食文化圏でうどんの登場となる。北関東はどの県もその条件に該当し、小山は「開運うどん」と冠して縁起がいいご当地麺としても売り出している。

駅から徒歩圏でいただける店は限られ、名前からして麺はうまかろうと選んだこちら。30年以上前からやっており、製麺所に併設された食事処は社食というか自営の家庭の台所のような、超庶民的なたたずまい。どのテーブルにも新聞や雑誌や伝票や業務用品が適当に置かれていて、部屋のあちこちにも店の方の私物がお構いなしに積まれている。自分もまったくお構いなしでよいので、物類はそのままにしてもらい空いた席へ。

店は年配のおばちゃん方数名でやっていて、真ん中の大テーブルでは近所のおばちゃん集団が食後の茶話会中。客はほか常連らしいタクシー運転手のおじさんのみで、すべて顔見知りらしく自分の卓以外はいつもの時間が流れているようだ。うどんは名物だけにツルツルで瑞々しく、醤油味濃いめのつけ汁と相性抜群。汁は椎茸にシメジ、ネギ、油揚げ、かまぼこ入りのけんちん風で、体に良さげだ。

うどんのほかにも手作りのおかず3種の小皿、食後のコーヒー、さらに「おみやげにね」と小山米のおにぎりに赤飯のミニ折りなど、あれやこれやと出るわ出るわ。運ばれてくる都度におばちゃんと会話しているうちに、いつしか大テーブルの茶話会からも声がかり、自分もコーヒーを飲みながら食後のローカル交流へ突入となった。完全アウェーからホームへと切り替わる、この瞬間が楽しい。

さらに常連という、お芝居の稽古を終えたばかりの着物に白塗り姿の姐さん方が乱入、昼ジョッキを気持ちよく空けてはこれまたお誘いの声かけをいただく。夜営業もやっているそうで、これは小山の「聖地」となること間違いなさそうな、スバラシローカル製麺所である。