阿波池田は吉野川の河岸に位置する山深い地にある町で、四国のど真ん中に位置するため「へそ」とも標榜。オールド野球ファンにとっては、やまびこ打線と阿波の金太郎の池田高校のイメージが強いだろう。吉野川の河岸沿いの高台の学園地区にある同校も見に行ったが、町にはほかに大きく2つの特徴がある。

ひとつは古くから盛んだった、煙草産業の名残。キセルやパイプ用の刻み煙草が主で、最盛期には100軒あまりの煙草業者が軒を連ねていた。石畳の本町通り沿いがその中心で、立派なうだつを構えた古い商家が建ち並び、小京都と称される伝建地区に匹敵する景観が現在も残っている。

阿波池田たばこ資料館は、幕末から明治にかけて隆盛を誇った製造業者真鍋家の住宅兼作業場を用いた展示施設。たばこ産業は山村の農家の収入源として栽培された葉タバコの加工が起源で、池田の中村武右衛門がコンブ切り機をヒントに考案した削り機を導入して生産性が向上。「阿波の刻み」と呼ばれ火付きがよいため、漁師に愛用されたという。明治37年の専売制後も専売局の工場が置かれ、町の雇用を支えてきた。

展示には当時のきざみ煙草の製造機械のほか、懐かしいタバコのパッケージがアートのよう。池田の工場で製造されたハイライトの様々なタイプのものがあり、昭和の東京オリンピックや新幹線開業時の記念タバコの宣伝ポスターも掲示されるなど、嫌煙の現在からしたらとても興味深い展示だった。

もう一つは吉野川に設けられた、池田ダム。市街を抜け、河岸の高台から急斜面をつづらの鉄階段で降りた先に、巨大な青い鉄骨構造物が聳えるのは壮観だ。下流域の洪水防止と農業用水の確保が目的で、上流側の堰止湖・池田湖の森閑とした雰囲気と、下流側の谷合を流れていく吉野川の雄大な風景が対照的だ。駅から徒歩15分ほど、市街のすぐ背後のにこれほどのダムがあるとは、マニア垂涎だろう。

池田は秘境の祖谷渓や奇岩景勝の大歩危小歩危の玄関口的なイメージが強いが、街歩きのコンテンツにオリジナリティがあふれている。