昨夜の一献は、壱弐参(いろは)横丁にあるこちら。南三陸町に有志で炊き出しに行った前夜に呑んで以来の来店となる。壱弐参横丁は仙台朝市と同じく戦後の露天市が発祥で、昭和20年代初期に造られた公設市場の建物をそのまま用いた横丁。レトロ長屋に間口の狭い飲食店がひしめき合い、昭和の酒場街の風情をとどめている。

知った店の気分で暖簾をくぐったら、やや無愛想なご主人が言葉少なにカウンターへ座るよう指示。両端には常連らしいお客が黙々とひとり酒にいそしんでおり、完全アウェーな雰囲気に場違いさを感じ、サッと飲んで帰るかと、黒板の品々をそそくさと注文した。地場産のプリプリに甘いカキ酢、エッジが立ちみずみずしく脂ノリノリのサンマ刺し、ワタの濃厚さがぶつ切りの身にねっとり絡むイカ焼きなど。

珠玉のつまみをアテに地元大崎町に蔵がある「あたごのまつ」を傾ければ、次第に居心地も良くなってくるというもの。ふと思いつき、前回訪問時に店を選んだ仲間の名を出してみたら、ご主人の知人とのことで和んだ表情に。おかげで店との距離が一気に詰まり、両翼の輩も程よく酔いが回ったらしく話に乱入してきた。

こうなればご当地談義に花が咲き、「あたごのまつ」を差しまわれば返盃で「爛漫」のコップ酒が注がれる。アウェーが瞬時にホームに転ずる、この流れがカウンター酒場の素敵な醍醐味だ。

辞する際にはご主人自ら暖簾の前までお送りいただき、固い握手でお別れ。再訪時にはすっかり馴染みとなること間違いなしな、仙台の昭和酒場である。