女子旅ブームのおかげで、侘びた昭和の風情だった城崎温泉駅通りの商店街が、すっかりオサレに変貌。スイーツやカフェの店舗がフロントへ出まくる中、長くやっている町の純喫茶がやや押され気味に構えている。サイフォンで淹れたコーヒー専門店で、看板で推しているのはなんとブルマン。サードウェーブだスペシャルティだなんて流れに乗っからず、昭和のオジさんが羨望だったトップブランドを未だに掲げているのだ。

店内はクラシックながら、カウンターの奥は本格派コーヒーを供する職人が仕切る張り詰めた雰囲気。窓際の席に座り、何十年ぶりかの「ブルマン」をやや緊張しながらオーダーする。ほどなくして出てきたカップからは、心落ち着かせるあの芳醇な香り。口にするとまろやかかつ厚みある味わいで、突出した個性はない分まとまった美味しさだ。後口にサッとよぎる軽い渋みが、昭和の贅沢な一杯らしい気品を感じさせる、か。

一杯900円の値段も、イギリス王室御用達がキャッチフレーズだった、かつて高嶺の花だったころの名残のようにも。いまは時代から取り残され供する店は滅多に見られない、いわば古き良き喫茶文化の幻。それがこのレトロな温泉街には、妙に似つかわしく思えたりする。