城崎温泉は、志賀直哉の叙情的紀行小説『城の崎にて』の舞台で、柳並木が続く大谿川に沿い老舗の旅館が建ち並ぶ、趣ある温泉街である。一の湯や鴻の湯といったレトロモダンな風情の立ち寄り湯がいくつも点在しており、はしご湯さんぽも楽しめるが今日はひたすら歩いてかつて散策した通りや小道をたどった。

川沿いの窪地にある温泉街のため、町並みを望める高台がいくつかあり、駅通りから入った辯財天神社の小山、緑あふれる丘の上に三層建の展望台がある東山公園は、訪れる人がほぼいない穴場。大師山方面へ続く旅館街ほか、円山川の河口には日本海もチラッと臨め、意外に海が近い湯なことを実感できる。東山公園からは本住寺の境内へと下れ、メイン通りの北柳通りの一筋裏、錦水やしのめ荘が並ぶ静かな旅館街へ。スナックやラーメン屋の行燈看板が並ぶ路地ものび、鬼子母神と延命地蔵の祠があるなどローカルなたたずまいが感じられる。

柳湯橋のところで北柳通りへと出て、外湯の中で最小で熱めの湯の柳湯、城崎温泉のランドマーク的な一の湯を経て、土産屋や飲食店で賑わう湯の里通りへと続く。今風の店が増えている中、唐破風が堂々たる御所の湯付近には射的場やレトロなおみやげセンターなど昭和風の一角も。温泉祖神をまつる四所神社や蓮成寺といった古刹も集まる、温泉街の中心である。

フードコートとみやげ店が入る木屋町小路の先、木屋町通りは川沿いの閑静な通り。開祖ゆかりの古湯で吉井勇の句碑が立つまんだら湯、枯山水の庭園が見事な極楽寺、コウノトリが傷を癒した鴻の湯と回り、大師山の懐のロープウェイ乗り場へ。あたりは城崎温泉の元湯や温泉寺の薬師堂があり、中腹の本坊へは500段の石段が続く参道を登る。鬱蒼とした沿道には石籠明神や地蔵、磨崖仏が点在し、霊山らしい神秘的な雰囲気を醸し出している。

大師山山頂へは本坊からもロープウェイに乗れるが、頑張ってさらに山道を30分ほど登山。奥の院とそばに慈母観音とかに塚があり、ロープウェイ駅はみはらしテラスカフェとそばにナチュラルガーデンも整備されている。駅の屋上が展望台になっていて、温泉街と円山川越しに日本海、さらに丹後半島方面まで望める大パノラマが満喫できる。

帰りはさすがにロープウェイを利用、一の湯のところから文芸館通りへ入り、城崎文芸館前の『城の崎にて』の一節が記された文学碑を眺めて駅通りへ。お疲れ様でした。