喜多方ラーメンを全国区に広めたのは、「喜多方ラーメン坂内」チェーンである。調べてみたら、喜多方の老舗御三家の一つに挙がる「坂内食堂」が本家にあたり、チェーンを取りまとめている会社は暖簾分けした分家の関係だそうだ。職場の近くにもあったため、多い時は週に3〜4度はお世話になっていたことがあり、喜多方ラーメン食べ歩きのもう一軒は、その原典の味に迫ってみた。

60店あまりの加盟店を擁する「坂内」は、喜多方らしく蔵をイメージした小綺麗でシックな店構えだが、こちらは地方の老舗食堂の佇まい。年季の入った店内は午前10時過ぎから地元客があふれ、ここも喜多方の朝ラー文化を担っているようだ。オーダーは当時食べ続けていた、肉そば。表面がチャーシューで埋め尽くされたビジュアルはこの店のも同様なのだが、チェーンのこざっぱり感と比べてどことなく素朴さというか手作り感、言ってしまえば野暮ったさが伝わってくるような。

食べてみた率直な感想は、これといった推しは感じないラーメン。チェーンの「坂内」の方はスープに醤油の香りが立ち、中太の加水麺はグッとコシがあり、チャーシューは油たっぷりのトロトロと、パーツパーツが明確に主張してくる。それがこの店のは薄味のスープに抵抗なくすすれる麺、脂身は控えめで肉ベースのチャーシューと、どのパーツも極めて大人しめなのである。

が、まずいわけではない。むしろ全体的なまとまりが図抜けていて、俗に言う「スルスル入る」「止まらなくなる」ラーメンだ。よく味わってみると、スープは味の要素が繊細に絡み、麺は抵抗を感じずやわっともしない絶妙な茹で加減。チャーシューは脂がない分、かみしめるごとに肉の味がしみ出す。地域に根付いた常食となるラーメンは、こうでなければ強すぎて毎日食べるのはきついのだろう。

とあるめしバナ漫画の刑事さんは、有名店の料理のレトルト版を「本物には及ばないが、心意気を再現している」と語っていた。とあるラーメン発見漫画の商社マンは、「支店は本店の味を広めるため、味のチューニングを上げて個性を強くしないといけない」と述べていた。そんなことを思い出したら、チェーンの「坂内」と本家の味の違いの意味も腑に落ちてくるような、ちょっと変わった聖地探訪の一杯である。