馬場崎通りの河合中央交差点から、路地を一筋入ったところ。夜はひっそりした町家街の中に、ぽつんと行燈看板の灯りが照る居酒屋だ。立地と佇まいの通り地元のお客向けの店で、オープンキッチンの厨房前に4人ほどのカウンター席のほかは、ご主人の知り合いらしい地元の家族が、グループごとに座敷に収まっている。なので自分だけご主人とカウンターを挟んで差し飲みだが、知った者ばかりの地元客の盛り上がりにひとり混ぜられるよりは居心地が良い。

手書きの品書きもとりあえずの小鉢とか串焼きとか揚げ物とか、普通の居酒屋メニューがほとんどを占め、一角にある「わじまの味」から二品ほどをアテにする。地魚の甘エビはいしる焼きというのがあり、馨しい香りを放散しながら大振りのが5尾も登場。いしるのおかげで殻が柔らかくなり、髭も頭もいけるのが嬉しい。頭の味噌が濃厚に甘く、髭が香ばしく、ソフトシェルのようにクニャリとした殻の中の身は崩れないギリギリのトロトロ。すえた香りが甲殻類香に覆い被さり、エビではない発酵魚介の何かに変貌している。

合わせる日本酒は、品書きを見たところ「日本酒常温」「日本酒燗」しかないのは勿体なく、唯一銘柄を見つけ出した「千枚田」冷酒を頼んでもう一品のぬかさば焼きにぶつける。サバの糠漬け、福井でいう「へしこ」で、青魚の熟成した旨身が後を引くが強烈に塩辛く、冷酒が渇きを癒す用に進んでいく。締め麺は品書きに惹かれ、伝説の焼きそばに。甘めのソースの中太麺焼きそばで、豚肉がコマでなくブツ、かまぼこ入りは一応魚の町らしさなのだろうか。家庭の週末の昼ごはん的な素朴さが懐かしく、パンチ力ある発酵二品で飲んだ締めに、心穏やかにいただいた。

輪島は朝市弾丸散策の観光客が多く、宿は食事付きのところがほとんどのため、夜の食事処は輪島塗の器を使ったりするお高い店か、こうした地元ユースの店に二分している。ちょうどいい魚居酒屋が意外と見つけづらく、こういう地元向けの飲み屋で地魚料理を宝探し的にあたってみるのが、輪島の夜の楽しみ方なのかもしれない。