先月訪れた島根岡山県境の山峡の町のように、このところ観光要素のまるでない「秘境」を訪れる仕事を受けている。広島で訪れたのは、倉橋島の南寄り。呉と音戸の瀬戸の橋で繋がっており、バスで1時間ほどで行ける「島」である。中心集落の桂浜をはじめ、南側は古くから造船が盛んだった歴史があり、木舟の造船資料館をはじめ現役の揚陸型ドックやクレーンを備えた小さな造船所も見られ、産業を今に伝えている。

1日数便しかない町営バスで、大迫や鹿老渡や宮ノ口など、果ての集落をいくつか訪問。海を耕したかの如く並ぶカキ筏を前にした漁村、石垣を城塞のように積み上げ土止めした段々畑など、産業と海島の自然が一体化した風景は、なかなかのインパクトだった。また道中には戦時中の特殊潜航艇の訓練所跡の碑があり、近くには桟橋らしき石組の残骸も。陸海軍の拠点があった広島と呉、兵学校の江田島から、さほど離れておらず、戦争の爪痕がのどかな島にも残っている。

ただ海を見て、小さな集落をぶらっと歩いただけだが、知らない遠いところへ来た感に浸れる、ニッポンの秘境である。