
こうの史代作の「この世界の片隅に」の舞台となっている、広島県呉市。市街に作品の舞台が点在、また軍や自衛隊や造船ゆかりの見どころも多く、それらをめぐるてくてくさんぽに出かけましょう。
呉駅から駅前を横切る国道31号線を歩き、昭和橋から市街を縦断する堺川沿いの園地を歩く。入ってすぐの「蔵本通り 水の広場」には、渦潮から瀬戸内海、細くなっている音戸の瀬戸、呉市街から二河峡までを、親水池で表している。園地は左をゆく蔵本通りに沿って、呉市役所あたりまで続いている。ガス燈が備えられている五月橋のたもとには、重さ15tある戦艦大和の錨の実物のモニュメントも。この時期は梅の花が咲いていたり、中洲にススキが自生していたりと、都市の中ながら川辺らしい眺めも見られる。
かえで橋の先で川が二手に分かれ、堺川は右方向へ。御影石を使い重厚な呉市役所の建物を見て、蔵本通りへ出て先へ。中央橋を渡り、細くなった堺川沿いに再び歩く。生活感が漂う街並みの中、相生橋西詰交差点で今西通りを渡り、胡町公園の方へと入っていく。公園内から見える東の斜面は、北条家のあった上長之木町方面で、まさに木炭バスでは上がれなさそうな急な坂の集落に見える。
通りを直進すると、旧澤原家住宅へ至る登りで、瓦塀を備えた表門(御成門)の先に、土塀が奥へと続いている。澤原家は代々庄屋を務めた家で、屋敷の建物は1756(宝暦6年)年築。広島藩主が休憩に用いた記録があり、呉に鎮守府を呼び寄せた実力者でもあり、鎮守府長官がここに寝泊まりしたこともあるとか。その先の海鼠壁の土蔵に挟まれた階段を降りると、1809(文化6)年に作られた前蔵(三ツ蔵)が並ぶ正面へ出る。すずさんが闇市に買い出しに行く際に通る、当時のままの佇まいが残る。左の北条家方面から下ってくるところ、蔵の前を歩くすずさんを、思い出す方もいるのでは。