
魚町でひときわ立派な構えを見せる、山陰合同銀行本店営業部庁舎は、宍道湖の知られざる展望ポイント。14階の四方それぞれに展望ロビーが設けられ、エレベーターを出たところで東方面の眺めが開ける。湖で漁を行う漁船の船だまりがある大橋川が、中海方面の上流方向まで見渡せ、直下には白潟本町と、間口が狭く奥行きある平入りの建物が密集する魚町、名の通り寺が多い寺町、売布神社の緑の境内がある和田見町。神社が川岸にあることが、俯瞰するとよく分かる。
西側にはソファが配されていて、窓の向こうは宍道湖を一望する大パノラマ。右奥に松江城の城山、湖岸に松江しんじ湖温泉の旅館群、直下には先ほどの船だまりと白潟公園の園地、左に視線を移すとポツンと浮かぶ嫁ヶ島も見下ろせる。売布神社の船御幸神事の巡行ルートもたどれ、嫁ヶ島から眼下の湖岸を経て大橋川に入り、川岸の漁師町を見ながら中海へとさかのぼる様子をイメージしてみる。
展望ロビーから下り、灘町の交差点を渡り白潟公園から湖畔へと出てみる。大きな石灯籠の前を通り松の木が点在する湖畔まで行くと、強風のせいで湖面はかなり波が立ち、まるで荒れる冬の日本海を見るかのよう。厳寒の冬場や荒天が稀にある春先には、浅い内湖で穏やかな印象の宍道湖でも、荒れた際の危険は外海の漁にも匹敵する。船玉稲荷社などへ海難安全祈願をする、漁師や家族の思いが実感できるような眺めで、厳しい環境下を押して操業する漁師に、改めて感謝の念を抱かずにはいられない思いがする。