
青森で飲むのも、ここ一択。青森駅前にある居酒屋で、津軽地方の田舎料理とむつ湾の新鮮な魚介類を中心とした、地産地消をコンセプトに料理を提供している。たたずまいがこれぞ最果ての街の居酒屋然としていて、カウンターの片隅にひとり腰掛け、テレビのバラエティを眺めながら、しみじみひとり酒に浸ることができる。
青森に来たものだから張り込んで田酒…といきたいが、旅も終盤で資金が枯渇気味なので、庶民派「じょっぱり」純米をもっきりで。突き出しのヒラタケの塩辛でひと升空きそうだが、ペースを制御して真鱈子の醤油漬けを合わす。タラコは一般的にはスケソウダラの卵で、粒が小さいためにあのねっとり感を感じるが、マダラの卵はやや粒が大きめで、ザラリ、プツプツと舌触りや歯ごたえが感じられる。醤油で溶かれているようで舌の上でサラサラと心地よい。
続くイカの一夜干しは、軽く干すことで水分が飛び旨味が凝縮、でも硬くならないギリギリの見切りの干し加減が見事だ。外側はプツリ、中はしっとり甘く、イカ刺しよりもイカの素性をダイレクトに味わえる。イカは下北半島の大畑や風間浦が水揚げ地で、夏の夜には津軽海峡に電飾釣りの漁火が浮かぶ。
そして締めには品書きに「青森の味十選」のひとつとある、ホタテ貝焼き味噌。大きなホタテの自然貝を鍋にして、焼き干しやネギ、卵を味噌煮でとじたもので、昔は産後の女性の栄養食や、風邪など体調不良の時に食べられたという。トロリと甘い半熟玉子が煮上がり、シャキシャキのネギを包むようにからみ、家庭の味らしい素朴さがしみる。上にはカツオブシとのりがたっぷりのっていて、味噌のしょっぱめの味付けとカツオの香ばしさで、残りの「じょっぱり」がきれいに進む。
店は母娘が姉妹かのおばちゃんが、二人で切り盛りしてい。言葉は少ないが愛想は良く、喋りかけてはこないがこちらから振れば和かに構ってくれる。雪国の酒場のこの木訥さ、客と店の距離感がこういうのがいい。