
水がいい街だとスープの水質が良いとか地場の醤油がうまいとか、漁港や交易地だと魚介ダシの鮮度とか良質の乾物が流通するとか、ラーメンの食材の枕詞が揃ってくる。酒田もそんなあたりで、醤油ベースに魚介ダシのあっさりシンプルなラーメン、というマトリクスにはまってくる。
街の中に溶け込み過ぎるほどの老舗が多い中、こちらは市役所に近い新進の店らしく、簡素ながら小綺麗な構えの店舗は地元の客がひっきりなしに訪れ、地場の店らしい空間が形成されている。使い慣れた客は味濃い目とか卵のせとか、応用オーダーをなれた感じで駆使しているが、初見は酒田ラーメンの様式美に則り、縮れ細麺の基本形。あっさり過ぎるほどあっさり、麺の味がダイレクトに感じるぐらいで、普通のラーメンは濃すぎてきつい、と隣客が言っているのだから、酒田的な味覚ではちょうど良いのだろう。
ワンタンがのるのが最近の酒田ラーメンのトレンドらしく、挽肉が締まったワンタンが程よくアクセントになっていて、確かに平らげた後も体に負荷がない。隣客が、ここのラーメンはスープが飲み干せるほどの味なのがいい、と言っていたが、淡く微妙なだし加減のスープは確かにその通り。
スープやだしやタレをいじりまくり重ね重ねるのが、現代のラーメンの傾向なのに対し、こちらは古典を地道に行きながら、地元客の舌に合わせたチューニングを施している。ご当人・ご当店ラーメンが主流になりつつある中、地名を名乗り残っているラーメンは、こうしたスタンスによる「常食」として根づけているのかもしれない。