
一説によると、塩釜は人口比の寿司屋の軒数が日本一といわれている。中でも随一の人気を誇る店が、本塩釜駅前に構えるこちら。夏はマグロ、秋はサンマ、冬はアンコウにカキなど、新鮮で質のいい地元ならではのネタを握った寿司が自慢。中でもマグロは近海ホンマグロをはじめとする日本随一の水揚げ港・塩釜港を控えるだけに、赤身もトロも絶妙な味わい。1階はカウンターで、職人が6人と多い。壁には近海産の魚介を使った寿司や一品料理の品書きがびっしりと貼られていて、岩がきやアナゴなど旬の魚も。三陸産のブドウエビはボタンエビのこと。光物ではアジやイワシがある。
カウンターにつくや否や、おかみさんから本日のおすすめを矢継ぎ早に推される。カツオが旬で酢の物のおひたしが人気のようで、他のお客も頼んでいるためのることに。薄めの切り身におろしとミョウガがのっていて、酢と混ぜて身でくるんでいただく。薄いながらモチモチしていて身の味が濃く、おろしとミョウガが涼感あふれるさっぱり感。酢のおかげで食も酒も進み、1本目の地元塩釜の「浦霞」本醸造辛口がまろやかに進む。
続くアテはホヤで、握り拳ぐらいある大ぶりのもの。これだけのサイズは、水揚げ地の地物ならではだ。切っつけが立ちオレンジ色が鮮やか、一切れ一切れが太く塩の香りも甘さも分厚い。この時期は養殖物で筏に吊り下げて養殖、界隈は潮目でプランクトンが多く、富栄養のため甘くみずみずしく育つという。勢いにのって、イワシとアジのつくりも追加。イワシは地物で、梅雨から夏が旬の入梅イワシのため、あっさりして身の味よい。アジは山陰もので、今は全国で一番脂がのっているそう。トロトロ、フワフワの激甘さが、光り物同士で好対照だ。
合わせて追加した「一の蔵」特別純米辛口もほどよく空き、メインの握りは上寿司で締めることに。場所柄マグロが中心で、本マグロは日本近海で水揚げされたもの、メバチマグロは近海の生マグロだ。この日の本マグロは、大間のトロ。脂ののりがほどよく、複雑で滋味深い甘みに言葉を失う。メバチマグロは赤身で、ふわりと絹のように柔らかい食感。弾力もあり、後から身の味がじわじわくる。どちらもねっとりと魅惑的な食感が、マグロどころならではの素晴らしさである。
締めは桃のシャーベットで、さっぱり口直ししてお開きに。カウンター奥の壁に、東日本大震災時の津波の高さが記してあるのを、以前その直後に来店して目にしたことを思い出す。10年近くぶりの来店ながら、板前さん方と魚談義で盛り上がりれ、懐かしいような苦難を乗り越えてこられたことに安心したような、もうなじみと言える塩釜のローカル寿司店である。