
奈良町から餅飯殿のアーケード商店街「もちいどのセンター街」を歩いていると、通りの中ほどで店頭にかまぼこやさつま揚げを並べる店に出くわした。どれも串を打ってあり、テイクアウトして食べ歩きできるらしい。店内を覗くと、ほかにも様々なタネを使った揚げかまぼこが揃っており、いくつか選んでみることにした。エビやゲソやタコなどのほか、チーズやキムチにポテトといった、魚縛りでない今風のもある。
白壁商家風の店構えに「魚万」とあるこの店、奈良の町とのゆかりが意外に深い。創業は明治34年と、餅飯殿の界隈では老舗の部類に入る。以来、海のない奈良に魚を提供すべく、薩摩揚げや天ぷらなどを扱い続けて110年あまり。界隈の普段使いの客を中心とした、町の揚げかまぼこ屋として根付いている。由緒書きによると、鮮魚を練り製品の形や味に変えることで「魚の命を移し替える」とあり、魚を特別な食材と捉える当地の思いが伝わってくる。
目移りする中からイワシ団子にジャコ天と、古都らしくゆば巻の三種を選び、猿沢池に出てベンチでかじりついてみる。ジャコ天はすり身の中から、やや大振りのジャコがたっぷり顔を出した。形になるぐらい成長した「かえりちりめん」が練り込まれており、弾力あるすり身の甘さとジャコの香ばしい塩っ気が、魚の天ぷららしい。イワシ団子はすり身が柔らかく、ゴボウの土の香りが強靭。湯葉巻はパリッ、シコッとの歯応えからグリーンピースがハイカラな、和洋の折衷が楽しい。
池越しには興福寺の五重塔がそびえるのが望め、かじり眺めながら先ほどの由緒書きを思い返してみる。鮮魚を練り物に加工することは殺生の業を背負うことではなく、人の命となる美味で栄養ある形へと転生させること、なんて説法が浮かべば、普通の揚げかまぼこがいかにも仏教都市らしい食に思えてきたりして。