宍道湖に臨む温泉宿「すいてんかく」にて、松江しんじ湖温泉の湯にじっくり浸ったお陰で、翌朝は6時前に気持ちよく目が覚めた。カーテンを開けるとあいにくの曇り空、風も強く湖面が波打っている。その眺めの中ほどをいきなり、左から右へと全速で駆け抜けていく、小型の漁船群。漁に出るというよりはボートレースのような勢いで、何かを目指しているかのような急ぎ具合である。これらは皆、シジミ漁に出る漁船で、6時からと決まっている操業開始の時間を皮切りに、ベストポジションを狙って急行しているのである。

しばらく部屋の窓から見ていたが、湖岸から至近で操業する船もあり、宿を出て湖岸の千鳥南公園の堤防まで降りてみた。船の数は先ほどからさらに増え、左手の宍道湖大橋から正面の白潟公園、さらに右へ嫁ケ島から玉造温泉方面まで、適度に散らばって漁を行っている。いい漁場には集中するのか、場所によって漁船の密度が濃いところも見られるようだ。宍道湖で操業するシジミ漁の組合員は、総勢300名ほど。週に4回、この季節は早朝6時から9時までと決まっている操業時間には、総出で湖面に出て漁を行っているのである。

シジミ漁には一般的に、「じょれん」という漁具が用いられる。8mほどのグラスファイバーの竿の先に、ステンレス製の籠がついた、巨大な熊手のようなイメージ。これで湖底の土や砂ごとシジミを掻き取るのだが、漁船を停めて手作業で行う「手掻き操業」と、船にじょれんを固定してエンジンをかけて獲る「機械掻き操業」の、2種の方法がある。正面では船を停めて水中で竿を繰る様子が見られ、長い竿をたぐるように湖中へ入れ、ゆっくりと揚がる都度に中からザッ、とシジミの粒があふれ出てくる。風と波に翻弄されながらバランスよく竿を扱う様子は、まさに熟練の技と呼べる。

しばらく漁の様子を眺めた後、宿で朝食をとって8時過ぎに湖岸に戻ると、船の数が先ほどより減っており、掻く作業をしている漁師も少なくなった。1日の規定漁獲量は90キロまでと決まっているため、達した船から帰港していくからだ。水揚げ後は石や質の悪い貝を取り除き、幅10ミリ以上12ミリ未満の小から中、大、16ミリ以上の特大の4種に選別。回ってくる問屋に卸して、作業が終了となる。船に選別器をのせている漁師もいて、この時間になると船を停めて選別作業に入っている。

漁の様子が落ち着いたようなので、千鳥南公園から松江駅へ向け、宍道湖大橋で大橋川を渡った。途中に東屋が設けられ、橋の直下で操業していた漁船を、真上から見下ろせた。ちょうど選別を終えたところのようで、船には青いコンテナ2つ、ちょうど規定の90キロ分がのっていた。橋を渡ると白潟公園の園地越しに、手掻きで操業を続ける漁船も見られた。松の木の合間、嫁ケ島をすぐ背後に控え、まるで宍道湖の風景画のように見える。

この地が育んだシジミを、決まりに則って資源管理しながら供給し、後世にも残していく。宍道湖大橋から見渡せる広々した湖、見上げると大きく広がる空を眺めながら、豊穣なる湖と漁師の心意気に最敬礼したくなるような、松江のローカル魚介探訪である。