
昨日の大津の街あるきは、旧東海道ゆかりの町屋を巡り元公会堂を使ったレストランで締めくくった。町の歴史や成り立ちに所以する、いわば定番の散策コースな一方で、なかまち商店街のアーケードやそれと東海道を結ぶ路地には、庶民性や路地の生活感が窺えた。街の面白さは路地や裏通りにもありで、入り込むほどに素顔の大津が見えてくるのも面白いものだ。
個性的な商店街の印象が強かったこともあり、翌日大津を後にする前の昼飯にも、駅前の商店街へと分け入った。すると早々に覗いたビルの中、薄暗い路地の奥に「肉」の文字の看板が目に入る。いかにも怪しい佇まいの中を分け行ったところには、キャパ10人ちょっとの食事処があった。覗くとお客が一組だけと、開店の11時直後に来たのが奏功したらしい。これは行列必至の「肉食堂 最後にカツ!」のカウンターへ、すぐに落ち着けそうである。
こぢんまりした店内のカウンター越しには、兄さんがひとりで火を立たせ奮闘中。お姉さんの接客がていねいで、促されて奥から順に詰めると、先客が自然に寄ってスペースを開けてくれた。店とお客がつくるいい空間が心地よく、怪しげな店の印象は吹っ飛びひと安心。品書きから「俺のカレー黒」700円にしたら、「それは肉なしなので、初めての方はこちらがおススメ」と、「名物の肉カレー黒」を推してくれた。トンテキのせのカレーだそうで、昨日の近江牛の煮込みに続き、今日は豚というのも悪くない。
京阪島ノ関駅駅そばに本店があるこの店、界隈では肉をがっつり食べたい時の必須アイテムとして、知られた店という。トンテキとビフテキをメインにカレーや定食に仕立てたメニューが揃い、「最強」「伝説」「究極」「至高」などと冠してお客を誘っている。カウンター越しではフライパンでひっきりなしに料理が炒められ、炎がガンガン上がりまくり迫力がある。お客はほとんどが定食を頼んでおり、厨房からそのまま運ばれる大盛りのフライパンと対峙。狭い店内は調理場の熱と食べる人の熱が充満しており、「肉食堂」とのパワーある屋号も伊達ではない。
自身の前に盆が置かれると、いよいよ「名物」の登場だ。丸長皿にはごはんと真っ黒なルウ、そして焼きたてのトンテキがどっさりフライパンから引っ越してきた。すさまじい肉の量に、カレーのみで良かったかなとやや後悔しながらひとさじ。激辛を思わせる見かけに反してルウは甘ったるく、砂糖かハチミツかナッツ系の甘味がしっかり伝わってくる。それが一呼吸置くと辛み要素が多重に立ち上がり、甘さとせめぎ合い味覚を膨らます。その複雑さにスプーンが止まらなくなり、300グラムと多めにしたご飯がザクザクと進む。
トンテキもボリュームがある見た目ながら、きめ細かい肉質が旨味をたっぷりとどめ、適度についた脂身がルウと異質の甘さで舌に溶ける。トンテキだけそのまま食べても旨く、ルウと絡めれば味わいがさらに引き出されるのがたまらない。昨日の近江牛すじ煮込みの繊細さに対し、パワフルでワイルドないかにも肉料理といった感じで、最初は量にたじろいだが意外にペロリと食べられてしまうのも嬉しい。ご飯をもうひとつ上の量にしてもいけたかな、と最後はやや強気になりつつ、きれいにごちそうさま。
店を出ると朝からの雪混じりがすっかり収まり、きれいな青空が広がっている。駅から見下ろした先の琵琶湖も青い湖面が望め、さんぽ日和になりそうだ。トンテキパワーのおかげでエネルギーチャージできたし、すでに歩き尽くした大津の街の路地をもう少し攻めてみるか、と再び散策意欲が湧く、湖国のパワフルローカルミートである。