
2日目の酒蔵巡りは飯能駅に近い「五十嵐酒造」へ。青梅の「澤乃井」に勤めた初代が飯能の水の良さに惹かれ、1890年からこの地に構える蔵だ。銘柄の「天覧山」は市内にそびえる山からとり、10〜4月にかけて年間で販売する10万本を仕込んでいる。販売範囲は飯能をはじめ所沢、川越、鶴ヶ島あたりまでと、ほとんど地元で消費される地方蔵である。
この日は仕込み作業中の蔵に入れてもらい、現場を見つつ5代目御主人のていねいな説明を伺った。この蔵の酒米は、兵庫県産山田錦、雄町をはじめ、北海道から広島まで各地のものを使っている。まずは「精米」で、酒米を熱が生じないよう、4日かけて50パーセント程度削る。これを「洗米」して、和釜の上で蒸す。今は仕込みの時期のため、これらの作業を毎朝6〜10時にかけて行なっているそうだ。見学した時間にはすでに米は蒸しあがった後だったが、和釜からもうもうと上がる湯気に、その様子が想像できる。
麹作りは、奥にある室(むろ)行なっている。中は35〜40の温室で、仕込み終わったら室の前に広げて棚で乾かす。これが「種麹」で、各酒蔵ごとの酒の味わいを決める大切な要素となる。蒸しあがった米にこれをふりかけると糖分が生成され、それを酵母が食べることで発酵が促進されるというのが、酒づくりの基本的なプロセスだ。ちなみに酒蔵見学前に納豆を食べるのはNGといわれるのは、室に敷いた藁につく納豆菌が活性化して麹がネバネバになるからだとか。今の室は近代的かつ閉鎖されているため、問題はないらしい。
タンクがずらりと並ぶ仕込み蔵では、ちょうど今年の新酒を仕込んでいる最中だ。米を倍々でタンクへ足していく「三段仕込み」、タンク内に酵母を入れて糖化と発酵を一度に行う「並行複発酵」という、オーソドックスな日本酒の発酵法により仕込んでいるという。タンクで発酵させる期間は20〜25日で、仕上がりの判断基準は蔵により様々だが、この蔵の指標はアルコール度。数値が規定に達したら、袋詰めしてもろみにし、「搾り」にかかる。
絞りの作業場には大型の機器が2台並び、仕上がる酒の種別によって使い分けるという。両横から加圧する「ヤブタ式」は主流の方法で、2日ほどの短期間で透明で淡麗な酒を搾る。舟を使いもろみ袋を重ねて重りをかけ搾る「佐瀬式」は、4日ほど時間をかけ大吟醸や純米吟醸を搾る。ほか、もろみ袋を吊るして自然に落ちるのを待つ「袋吊り」は、時間がかかり量は少ないが味わいが濃い酒が搾れる。仕上げる酒の種類はその時々の注文によりまちまち、甘口か辛口かも麹が糖分を出している段階によって変わるのだそうである。
そのヤブタ式で搾ったばかりの原酒を、なんとその場で試飲させてもらうことに。酒米は「五百万石」を使った、純米吟醸の無濾過生原酒だ。まだ米の粉が浮いており、アルコールも17度と高く、口にすると甘さと渋さとスッキリ感が混ざったような味わい。まだ製品になる前ながら、搾りたての上澄みらしい荒々しいうまさである。
店舗の試飲コーナーで、角の取れた「秋あがり」もいただいたら、酒造巡りは終了。話題のかのキャラクターのテーマパークも、足を運んでおきましょう。