
伊勢外宮の最寄りである宇治山田駅前には、小さな神社が社殿を構えている。明倫商店街からの流れで足を向けたら、緑に埋もれた社地の中ほどに、侘びた木造の社殿がひっそりと立っていた。境内にしばし佇んでいると、日没寸前ながら近隣の方らしい参拝者が、ちらほらと参りに来るのが目に入る。「箕曲中松原神社」という社名のこの神社、1000年以上の歴史があり、多くの神々が合祀された山田地区の氏神、と説明書にあった。お伊勢さまの地元の鎮守から参拝した訳で、伊勢神宮への信心もいっそう深くなりそうだ。
境内でゆっくりしてしまったため、日没が過ぎあたりは真っ暗になってしまった。宇治山田駅へ戻ろうと鳥居から出た途端、ちょうどのタイミングで正面のビルの2階の明かりがパッと灯った。「喫茶モリ」との屋号が灯る店頭の行灯からして、地元客向け仕様の喫茶店らしい。小一時間駅前をさんぽした後にひと休みもよしと、夜の営業が始まったばかりの店内へお邪魔した。ボックスのソファ席が並ぶ店内は割と広く、神社の森を見下ろす窓側に落ち着いたら、アイスコーヒーを頼んでひと息つく。
ややすると地元のお客で席が埋まってきたが、さらりと観察したところ、全員が同じメニューを食べているのに気づく。壁の張り紙にもある「モリスパ」なる品で、見た目はスパゲティナポリタンのようだ。夕飯にはやや早いが、地元の味を試すべく自分もオーダー。ややするとジュクジュク、モウモウと音と湯気を上げた一皿が、賑やかに運ばれてきた。ケチャップ味のスパゲティがメインで、赤ウインナーなどのトッピングとともに、卵で全体をとじてある。調理した鉄皿をそのまま出すため、できたて熱々なのが迫力モノだ。
この喫茶モリ特製スパゲティ、通称「モリスパ」も、伊勢市の三大ソウルフードのひとつに挙げられる品なのだ。ナポリタンのスパゲティに卵を敷き、ウインナーとグリーンピースとパルメザンチーズをのせた見た目は、鉄板焼きスパゲティといった感じである。からあげ丼と同様、見た目はシンプルながら、ボリュームある盛りとサラダ油たっぷりのこってり感は、かなりガッツリ濃い系になる。そのためこれも、地元の学生やサラリーマンの胃袋を満たしてきた逸品で、伊勢の活力源ともいえるローカルスパゲティといえる。
ナポリタンのケチャップ色、卵の黄色、さらに赤ウインナー、グリーンピースと、色合いの鮮やかさが食欲をそそる。まだジュージュー鳴っているのを、くるりとフォークで巻いてひと口。太めの麺は熱がじわじわ通って、コシの強さがちょうどな塩梅になっている。脂っこそうだがそうでもなく、熱でトマトの酸味が軽く飛んで、甘みが引き立ち食べやすい。ポイントの卵は、熱が通るとちょうどだし巻きの柔らかさに。ふわりとスパゲティをくるみ、やみつきな食味を醸し出す。赤ウインナーのホコホコなチープさも、昔食べた懐かしさを感じさせる。
鉄板は最後まで熱々のため、終わり頃には麺はカリカリ、卵は炒り卵になり、お焦げ焼きそば風に楽しめた。食べ終えても汗が止まらず、クールダウンにアイスコーヒーをもう一杯。ちなみに地元客はほぼ「大盛り(大モリ)」で頼んでおり、締めはバナナジュースが流儀なのだそうだ。地元の鎮守の向かいにていただく、地元に根付いた常食。ともに巡り触れるごとに、この街の懐に少しずつ入っていけているような、伊勢のソウルフード探訪である。