
最寄駅の出口まん前の立地ながら、年に一度しか足を運ぶことのない店がある。先日、店頭を通ったらその誘いの張り紙を見かけ、週末の昼ごはんに足を運んでみた。「小さなそば屋」と称して本格手打ち蕎麦を供する店で、格子戸に緑の暖簾の構えからして、庶民派商店街にあって異彩を放っている。
オーダーは張り紙に書かれていた、牡蠣そば。まるまる膨れた大振りのカキが4つものった、冬場限定の品である。いい感じに汁に浸ったのをホクッ、ハフッといけば、柔らかな身からカキの滋味があふれ出てくる。追っかけでそばをザッとたぐると、細めながらシコシコと心地よい弾力。温そばながらこのコシと香り高さは、二八の手打ちならではのどっしり感だ。
甘めの味付けとカキのエキスが一体となった、熱々のつゆをズッとすすれば、天を仰いでハアッ、とひと息。最初の寒波が襲来する頃、思い出しての一杯を平らげたところで、この町での歳末と冬が今年もまた、始まるのである。