「杉田梅」は横浜・磯子にルーツがある梅ながら、宅地化により往時の杉田梅林が失われ、地場産の梅の生産もほぼ絶えてしまった。現在は同じく県内の梅どころである、小田原の曽我梅林に移した原木をもとに、わずかながら梅の加工品が生産されている。

アンズほど大きく柔らかな果肉、キリッと立った酸味から、杉田梅は梅干しに向いていて古くから珍重されていた。それが嗜好が現代的になるに連れ、強烈に酸っぱく塩分も高めなこの梅干しが敬遠されていく。当時のままの材料と手法で今も作り続けている製造元も、数少なくなってしまったという。

杉田で杉田梅を味わうなど今や叶わぬのか、と思いきや、ゆかりであるこの町で扱うべく、小田原などから取り寄せている食品店がいくつかあった。その一軒である杉田駅踏切に近い「なかや」に足を運ぶと、あいにく日曜でお休み。もう一軒の商店街の中ほどにある「菓子一」では、和菓子屋ながらショーケースの上で袋入りの梅干しが売られていた。

杉田梅は曽我梅林産、塩分は18パーセントと、昔ながらの素材と仕様な梅干しだが、希少ゆえか450グラムで1300円の値段につい、二の足。扱っている事は確認できたので、今日のところはゆかりの銘菓「梅さやか」を味わうことに。梅の甘露煮を種に包んで焼き上げてあり、白あんの甘みと梅のほのかな酸味がうまくマッチ。梅林の賑わった頃を偲ぶ味、との能書きの通り、華と品のある味わいである。

当時の名残をとどめる寺を訪れ、現存する樹を探し、伝統の梅干しとゆかりの銘菓にたどり着く。杉田梅をめぐり町を一巡し終えたら、幻の梅がちょっとばかり身近な地元ものになったような思いがする。