飲んべの友として、居酒屋の肴の定番メニューのホッケ。大きさと値段から、まさに庶民の味方の酒肴である。消費量の9割が北海道で、石狩湾に釧路、網走、知床、オホーツクと、ほとんど全道で水揚げされているから、まさに北のローカル魚。水揚げ地とあれば、都会の居酒屋のとはひと味違うホッケに出会えるのだろうか。

北の最果ての稚内も、ホッケはサケマスやタラを抜いて、魚種別トップの水揚げ量を誇る。駅から港沿いを歩いて10分ほど、物販施設の「稚内副港市場」の水産物売場にも、銀鮭や新巻鮭、カニに混じりホッケがあちこちで売られていた。稚内名産とあった一夜干しの開きボッケは、まさにうちわのような巨大さ。冷蔵コーナーでは鮮魚でも扱われ、その姿を観察できるのが珍しい。改めて観察すると見栄えは割と地味、のんびりした底魚な印象がする。

おばちゃんに聞くとこれは真ボッケで、「これでも小さいほう、中ボッケぐらいかな」。底引き網船により操業、水揚げの後、対岸の卸売市場にて箱単位で取引されるという。出漁や水揚げの時間は日によってまちまちで、今日は海が荒れているので船が出ていない様子。「前の岸壁に船がみんな停まっているからね」とおばちゃん。漁港に出てみると、中型ほどの底引き網船が岸壁いっぱいに、整然と停泊しているのが見られる。

やや駅方面に戻ったところで、漁港内を望む魚料理の店を見かけた。この「うろこ亭」で港を眺めながら昼食を、と海が見えるカウンター席に落ち着いた。クラシックのジョッキに、アテはやはりホッケ。品書きの「姫ホッケ」は、小ぶりのホッケを塩をして一夜干しにしてから、食べやすくカットしたものだそう。ジョッキを傾けつつ棒状のをかじると、サラリきめ細かく皮目がパリパリ、親しんだあの香りがいい。皮目の部分がよく干されて風味が強く、居酒屋のホッケが一段上質になったようでもある。

おばちゃんによると、ホッケは真ボッケとシマホッケの2種類があり、大きさによって味や脂のノリがかなり異なるという。今は真ボッケが最盛期で、超ビッグサイズな上にたっぷり脂がのってオススメとか。その定食が売りらしく、旬の真ボッケは今だけよ、と誘われてしまう。食べ切れるか迷うものの、姫ほっけよりうまいと聞けばえい、と追加で注文だ。

ジュクジュク音を立てながら運ばれてきたのは、まさに小ぶりのうちわか卓球のラケットのような、相当迫力がある。箸で身をひと塊、ポコッと外して口へ。純白の身がホクホクプリプリで、跳ね返すような弾力がイキのいいこと。旬のとれたてをそのまま干しているから、冷凍もののような匂いがせず、鮮魚のうまさが感じられる。皮目にはタプタプたまったスープが芳醇で雑味なく、いかにも体によさそう。箸でゴシゴシ身を剥がし、スープに絡めて残さず味わっていく。

頭の近くや胸ビレの付け根、頬のよく動くところの身をほじり、中骨についたよく日に当たった美味しいとこをペリペリはがしてカリカリ、段々になっているハラミや縁側もせせりながらツルツル。脂がヒタヒタの皮もすすってもまだ半身たっぷり残っている。これはご飯の出番で、身をおかずにして最後は皿にのこったのをぶっかけて、アラと皮の細切れの身のおろし丼で締めくくった。皿に残ったのは頭と中骨と小骨のみ、日頃お世話になっている肴魚のふるさと表敬で、最大級の礼をもっての食い尽くし、か。