
創成川はかつて、札幌への水運による物流を担っていた。二条市場はその影響もあり、当時から開けた市場であった。石狩川の漁師が川を遡って運んできた漁獲が、この市場を介して創成川での水運業者と取引される。現在もこの市場に、石狩湾など周辺のみならず道内の各所から魚介が集まるのは、そんな由緒もあってのことだろうか。
店頭には扱っている魚介は全部「道産」だよ、とご主人が語る店では、この市場らしく本タラバガニや毛ガニが店頭をドンと飾り、サケも日高の「銀聖」なるブランドサケが目を引く。鮭児はないのか聞いたところ、まだこれからが時期だそう。銀聖ぐらいの大きさで3万円はするそうだから、相変わらず幻のサケである。
観光客向けの看板魚介のほか、ローカルな魚介では通路を挟んで貝類も並ぶ。えりものバイ貝や厚岸のアサリに網走のシジミ、ほかツブやカキなど。道内の産地が記されているから、なかなか参考になる。その場で食べられますとの札にもひかれ、ホタテ200円とホッキ300円をオーダーすると、奥でむいて殻を皿代わりにして運ばれてきた。店頭通路の小テーブルでいただくのが、何とも市場らしい。
宗谷でとれたというホタテからいくと、身がしっかりシャクシャク軽やかな歯ごたえ、ヒヤリつるりとした舌触り、 ピシッと切れる甘みにハッとする。ヒモも一緒盛りで、すするとザクザク歯切れのよいこと。こちらは甘みより潮の香りが楽しめる。ホッキも殻に細切れにした身がたっぷり盛り。こちらはシコシコ、サクサクと、違う軽やかさが心地よい。甘みの押しはホタテよりくっきりしていて、つまみかむたびに嬉しくなる。醤油なしでも楽しめ、大盛りがあっという間にペロリ。ホッキは苫小牧で水揚げだそうだから、いくらか当地のローカル魚介と思えば、ちょっと嬉しくなる。
地魚はそんな具合でさほど期待できそうにないので、散歩程度で済ますつもりが、軽くつまんだ生貝が空腹の呼び水になってしまった。焼き魚の朝定食を軽くいきたいが、目立つ店の品書きはウニイクラの豪華海鮮丼ばかり。諦めつつ路地に入ったところ、1000円内の各種定食の品書き短冊が並ぶ小さな店を見つけた。屋号は「食事処ながもり」とあり、ガラリと戸をくぐると地元客用の市場食堂風情。周辺の店舗で働く人や魚を届けた業者らが、早めの晩酌? を楽しんでいる。
これは期待できそうだ、と数種ある焼き魚から、つぼだい定食900円をオーダー。目の前の焼き台で、サンマやハラスやホッケなど、前の客のが焼かれている。うちわで仰がれ煙が漂い、食欲が沸くこと。大振りのまんまるい焼き魚は分厚く、バッツリ離れる身の旨味が詰まりきっていること。一夜干しにしてあるようで、白身も脂もメチャクチャ味が濃い。最初のひと箸で食欲に火がつき、箸でグッとつかみ口に放っては飯をガバッ、骨についたカリカリの身をペリッとはがし、小骨のほぐれ身もしゃぶりまくり、ただただかっ込み続ける。
皮までザクザクきれいに平らげ、中骨だけ残る食べ尽くしっぷり。久々に焼き魚を、脇目もふらずガツガツむさぼり食った。これで近海産の地魚なら言うことないが、親父さんに聞くと「ミッドウェー沖、ハワイ近くだね」。市場食堂の風情は堪能したし、何よりメチャ旨だったから、えらい遠方からのお魚もこの市場らしくてよし、だろうか。