岐阜方面の旅の最後にあえて富士市に泊まったのは、ご当地グルメ「つけナポリタン」を試したかったのもある。JR富士駅の近くには供する店がなく、食べるなら岳南電車に乗り換えて、中心街の吉原本町に来なければならない。他所からのついでといかずわざわざ行く必要のある、硬派なご当地グルメである。

晩飯にチェーンの「串特急」を選んだのはこれ目当てだったのだが、軽く飲んでからオーダーしたら「やめました」と兄さんがつれない。昼の美濃加茂やきそばといい「用のない街に…」のご当地グルメは、盛り上がりにイマイチ欠けているような。困難? のおかげで探訪する側のテンションは一層上がり、散歩して酔い覚ましした後に「喰物問屋」という居酒屋へハシゴした。店頭につけナポの幟がひるがえるので、ここは安心だ。

つけナポリタンとは名の通り、パスタをつけ麺風に別添えのスープに浸けて食べるスタイル。なのでパセリを散らせたパスタとトマトベースのスープが分けて供され、スパゲティにしては意表を突く。箸で麺をとり、まさにつけ麺風にソースにサッとくぐらせてズッ。ソースは濃いのでからみはよく、トマトの風味もこってり濃厚。普通のつけ麺のつゆ以上に、カツオや昆布と同じグルタミン酸系が強いから、旨味の引きがものすごい。

スープはダブルスープが定義とあり、ここのはコンソメと鶏ガラベースのあっさり仕上げにしては、トマトの力強さを支えている。具にはアスパラにパプリカ、さらに地鶏のひき肉とウインナーが入り、ナポリタンのようなミートソースのような。たまたま細めの麺だったので、飲んだ後でもスルスルいけたけれど、具には温玉とチーズも控えているから、飲み後の締め麺にはちと重いかも知れない。

居酒屋の不思議なハシゴでどっしり満腹、再び商店街に出れば、日曜日の晩なのに歩く人はまばらで寂しい。お日様の野菜を用いたパワーあふれるご当地グルメが誘って、岳南電車に乗ってくる旅行者で賑わうことになれば、「わざわざ」から「目指して」の街への変貌も期待できるかも知れない。