各地の観光地ですっかり定番になった名物料理、紐解いてみると元来の姿から変わっているものも多い。旅行者目当てに高価な食材が使われたり、派手目な演出が施されたり。観光客の惹きとなる「ハレの料理」でないと、旅の印象に残りづらいのは確かである。が、それに阿ってしまったがために、あるべき形が損なわれたり、本質が変質しては本末転倒だ。当地の食文化を来訪者に伝承するのが、旅で出会うご当地料理の使命であってほしいと、つくづく思うのだが。

飛騨地方の名物料理である朴葉味噌焼きは、高山や奥飛騨や下呂温泉での名物料理として、外せない品である。飲食店の店頭のメニューを見ていて、目を引くのは何といっても「飛騨牛朴葉味噌焼き」。A5ランクの高級銘柄牛とのコラボは魅力的で、味噌と和牛のベストマッチも確かによだれものだ。が、朴葉味噌焼きは本来、山で働く人たちの弁当で、おにぎりのおかずに自家製の味噌を朴葉にくるんで持参したのが起こりである。飛騨牛バージョンはいわば、伝統の郷土料理とご当地牛を一緒に味わえるよう、華やかに創作された名物料理である。

下呂温泉での夕食にぶらり入った、白鷺の湯のそばにある「里の味 千田」でも、看板の品に飛騨牛朴葉味噌焼き定食とあった。高山で何度か味わったので今日はスルーしつつ、酒のアテにローカルな逸品がないか探すと、ナスと豆腐の朴葉味噌焼きというのを発見。普段使い感のある素朴な食材構成に惹かれ、こちらを頼んでみた。朴葉の上には豆腐とナスをはじめ、シイタケにシシトウにたっぷりのネギとごってりの味噌が。おばちゃんの指示に倣い、くつくつ煮えたところでざっと混ぜ合わせ、野菜がへたっと仕上がったら食べ頃だ。

まずはしっとり柔らかくなったナスから、味噌を絡めてホフホフと口へ。しんなり穏やかな舌触りの後に、トロリとジューシーなナスならではの食感、さらに甘々な味噌がかぶさるように主張する。やわっとなったネギの鮮烈な香気にも、シャッキリしたシイタケの山の芳香にも、味噌の甘さが正面から当たって互いを引っ張り上げるよう。山の民のまかないだけに、畑や森の幸と味噌焼きの相性は見事で、これぞ労働めしといった滋養があふれている。飛騨の山林でひと働きしてからこれで飯をかっこんだら、日本人に生まれてよかったとしみじみ浸れること間違いなしだ。

辛口の地酒「天領」を合わせて飲みつつ、いてもたってもいられずにご飯を追加。味噌が程よく絡み染みた豆腐をベシッとのっけて、ザッと崩してご飯とともにザバザバやれば、もう身も心も飛騨の人になれたような気分に。素のままの郷土めしに触れられれば、旅心が盛り上がるのはもちろん、当地の暮らしや文化も舌から、胃から染みて実感できること請け合いである。