
若草寿司の店舗は閖上さいかい市場にあるが、かつては閖上の市場の前にあり、被災してこの場所で営業を再開した。店名の通り、若草色の看板に「ゆりあげ若草寿司」との屋号が染め抜かれている。閖上浜へ思いを馳せて、閖上浜を握り続けるとの文字が書かれた垂れ幕に、当地への思いが伝わってくる。
開店と同時に店に入ると、親父さんと女将さんが漁業事情などいろいろ話してくれた。閖上のこの時期の漁業は、赤貝漁本。赤貝は泥の中に棲息しており、「マンガ」という籠で、海底をかいて漁を行う。深いところにいるために、津波が来た際にももっていかれずに大丈夫だったそうだ。加えて海底のがれきがなくなるまではマンガを引けなかったため、かえって資源回復につながったという。この年の漁は例年並みで、震災前と同じレベルに戻ったというから一安心だ。
赤貝の水揚げは10時ごろからで、沖合は波が5メートルと高いため風が強いと船を出せず、春先は数日に渡り出漁できないこともあるそう。セリは12時からのほか日によってまちまち。相対で入札するしくみで、最高額の人が落札する仕組みだ。またサイズは大きい方から1~5号玉まで仕分けされ、食べ頃は2年もの。親父さんによると、小~中ぐらいの3号ぐらいが使いやすい大きさで、大きいと身が弱く使いづらいという。「人間と一緒で、年を取り過ぎると扱いにくい」とご主人が笑う。
開店と同時に店を訪れたのは、1日5食限定の赤貝丼2600円をいただくためだ。注文を受けてから殻をむき、6つ分を惜しげもなく丼の上に並べ、イクラを宝石のごとくちりばめた見栄えからして豪華。鮮やかなプリプリの身をまずひと切れいくと、シャックリと歯ごたえが軽やかで、サクサクいくごとに海のエキスが放たれる。潮の香りはツブ貝を凌ぎ、食感はホッキ貝よりも弾む、知るところの貝のいいところを越えた凄みがある。2年間被災した海底で、その力をためた故の秘めたる力なのか。まさに赤の情熱な味わいだ。
そして別皿で出されたヒモとキモも、その味わいが実に深い。ワタからは貝の旨みをグッと詰め込んだ、こってりと濃厚なコクが舌に広がり、つきごはんが欲しくなる。ヒモはゴリゴリと強靭な歯ごたえで、特に付け根部分の柱が潮の香りが炸裂。それぞれの部位も、身の強さに相応したもので、これだけでも十分閖上のローカル魚介たる看板を背負える役者だ。