
駅のすぐ左手にある三角市場は、坂の街・小樽らしい立地の市場だ。入口から鮮魚店が並ぶ通りは、奥へ向かってゆるやかな下り坂。しかしながら、街並み散策のノリでぶらりと下り始めたら、そこは駅前一等地の観光市場。坂の両端には試食と売り込みの人垣トンネルが、手ぐすね引いて待っているから、呑まれぬよう気を引き締めて歩を進めるのが良さそうだ。
呼び声をかいくぐりつつ、店頭をチラ見しながら歩いていたら、坂の中腹の鮮魚店で珍しい魚に足を止めた。とぼけた面長ヅラがユーモラスというか、ちょっとオカルトなこの魚、ハッカクと品札にある。「頭のあたりを輪切りにすると、断面が八角形だからね」との店の姉さんによると、小樽の代表的な地魚らしい。「トビウオみたいに大きなヒレも特徴。飛ばないけどね」と、丁寧に広げて見せてくれた。この時期の小樽は地物のホタテもオススメね、と生簀を指して勧めてくれる。
魚談義に花が咲いたので、地物を出す市場食堂を紹介してもらったところ、すぐ向かいが直営の食事処。この「味処たけだ」で昼ごはんにして、さっそく先般オススメの魚介をオーダーした。ハッカクは刺身に、ホタテは焼き物で頼んだら、向かいの鮮魚店からそれぞれが皿にのって登場。店頭直送のイキの良さで、ホタテは殻をパクパク開け閉め、追加のボタンエビはビクビク跳ね回っている。
ハッカクは名の由来である、断面の形が分かる頭の部分と、広げたヒレも添えて出された。澄んだ白身の歯ごたえはザシザシと、見た目の印象の通りワイルド。でも味は清らかな淡白さに気品を感じられる。フグ刺し風に2、3枚がばっといただくと、歯ごたえは2倍、そして甘みは3〜4倍。大きなヒレで、甘みが高らかに羽ばたいていくような?
ホタテはまるまる大きな貝柱に、ヒモと卵がしっかりついていて、添えたハサミで切りながらどうぞ、と姉さん。シャクシャクかみしめると味が染み出るヒモ、ホクホクで粒が芳醇な卵、そして貝柱はさっきまでパクパクやっていた生命力そのままの、パツンパツンに弾む食べ心地。豊かな石狩湾の栄養分をバッチリ溜め込んだ貝甘さに、脱帽の旨さである。
これまでは「観光市場」の印象が強く、ちょっと敷居が高かった三角市場。そこにローカル魚を手軽に、手頃に味わえる市場食堂を見つけた。おかげでこれから小樽の再訪時には、運河へ下る前に「あの坂」の中腹を目指したくなりそうだ。