
眠い目をこすりながら食卓につくと、台所からふわり漂ってくるほの甘い味噌汁の芳香。焼きたてトーストと挽きたてコーヒーのピシッとした香ばしさ。朝を印象づける食の香りは人それぞれ、嗜好それぞれだが、目覚めとなるスイッチなのはいずれも同様。何度も止めてしまう携帯アラームのスヌーズなど目ではない、効果一発の香る目覚まし時計である。
旅先の旅館にて朝を伝える第一声、ならぬ第一香といえば、焼き魚の香りだろうか。サバの塩焼きの青魚らしい旨味香、焼きザケの脂ののった甘い香り。焼きたてでジュージュー、ジュクジュクやってるのなら尚よし。温玉や汁物や小鉢が並ぶ中、主菜たる存在らしく卓を包む香ばしさは、ああ旅路の朝だなあとしみじみ感じ入るものがある。
近頃増えた朝食バイキングでは、焼き魚は大鍋で一括して「蒸して」しまい、香りも何もない。だからきちんと焼いた一品は朝の頭に、さらに心にもジンと染み入る。目を覚ましてくれる朝食は、香りの先に作り手の真心が込められているはずだ。