このところ、アルコールを体がめっきり欲しがらなくなった。一生のうち飲む酒の割当量が決まっているとの説は、どうも本当らしい。その反動なのか、まだ割当量まで余裕がある(らしい)嗜好品に、好みが傾きつつある。天下泰平になれる大衆酒場より、静かで落ち着ける喫茶に足が向き、一献一品よりも美味いコーヒーが楽しみになる。

「コロラド」「マイアミ」世代ならやはり、純喫茶でキメたい。カランコロン、とドアベルを鳴らしながら扉を開き、目隠しの観葉植物の先へ目をやりボックス席探し。軽く陽が差す窓際に空きがあれば、新聞片手に体が沈むイスへドシュッ。品書きはブレンドとアメリカンだけじゃなく、モカやキリマン、コロンビアあたりはほしい。そして目指すは、最上段に聳えしブルマン。馨しい香り高さ、舌が泳ぐたおやかな丸さは、我々世代のプチ贅沢な時間と空間には欠かせない。

近頃は酒を飲まなくなった若い人が増えており、これは自分も嗜好の若返りか、と思ったりする。しかしながら彼らは硬派な純喫茶ではなく、洒落たカフェや珈琲専門店が集まりの場。加えて「ブルマン最高峰説」は近年改まり、流行りの店では見られなくなったとか。午後いちのひと気のない閑散とした店内にて、片隅でひとり、頑固なまでのブルマン推しは、やはり我々世代クオリティのようだ。