
四谷のしんみち通りにある居酒屋「北町商店」のご主人は、東日本大震災で被害を被った南三陸町へと、仲間と一緒に毎月炊き出しに通い続けている。その様子を伺ったり、何か自分たちにもできることはないか、と旅や食の情報発信に関わるメンバーが店に顔を出すようになり、今やすっかり仲間で馴染みの店である。
自分は今年の2月に炊き出しに同行させてもらったが、その際に味わった朝とれの三陸ワカメが印象的だった。潮の香りがキリッと立ったゆでワカメ。色鮮やかで粘りがガッチリしためかぶ。栄養価が高い水質と外洋に近く荒い波が、高品質なワカメを生み出す環境とのことで、ミネラル香が爽快な後味に海の幸の瑞々しさを感じたものだ。
歌津地区の泊浜では、ワカメ養殖に携わる「高橋水産」にもお邪魔した。自身も被災して、養殖施設がすべて流失。復旧に1年がかりかかった後、伺った時が震災後初の収獲だった。朝に刈り取ってきたワカメを釜でゆでて塩と混ぜ、翌日に水洗いして塩を落とし、葉のとり分けを行う。すべて手作業で、地道な工程が品質の維持に重要なのだと実感できた。
先日の北町商店での会で、南三陸の旬の魚介をご主人にお願いしていたところ、このワカメのしゃぶしゃぶが出された。生産者の高橋さんの名をとった「健ちゃんワカメ」は、厚手で幅広くどっしりした見た目。深い緑色のをさっと軽く湯がくだけで、食欲をそそる明るいグリーンへと変わる。口当たりはシャッキリ、かみしめるとザックリ。爽やかに広がる海藻香がまさに浜の元気食、といった感じだ。
ワカメをたぐるにつれ、地元の皆さんと笑い、語らったあの輪の中にいるかのよう。「ここのワカメは素材がいいから、どんな風に食べてもおいしい。人も素材がよければ同じね」との、おばちゃんの言葉も思い出される。来年3月の現地訪問の話も盛り上がり、このメンバーで旬の刈りたてワカメを味わいに行けば、現地のためにできる何かが見えてくるかも知れない。