台北から電車で40分ほどの基隆は、台湾の北端に位置する港町、かつ台北近郊の漁業の町でもある。駅前からバスでさらに20分、碧砂漁港には観光魚市場が設けられ、買った魚介を料理してもらえることで人気だ。1日目は台北の街中の生活市場、2日目は台北の台所的な場外市場と巡り、締めは水揚げ地に足を伸ばして観光魚市場と、三者三様の市場を体感したい。

施設は小売店棟と飲食店棟が並行しており、小売店の店頭の品札には現地表記の漢字のオンパレード。150〜300元の大衆魚ではアジ「鯵」サバ「鯖」スズキ「海盧魚」に混じり、割と見かけるマナガツオ「母尾」にイシモチ「黄魚」、台湾のローカル魚のサバヒ「虱目魚」もある。300〜500元ぐらいの高級魚は、小型のマグロ「鮪魚」にアマダイ「馬面」タチウオ「油帯魚」カワハギ「剥皮魚」車エビ「大明蝦」あたり。ほぼ日本でも馴染みがある魚ばかりで、大衆魚と高級魚の分類や相場観も似ているようだ。

魚は一尾売りのため、ひとりで買い出しして食事にするには、量が多すぎるのが困りもの。迷っているように見えたのか、身をおかずに、頭はスープにするといい、とお姉さんに勧められた。なるほど、とカタコトの会話で魚の説明とオススメを交わした結果、アマダイ「馬頭」を身は焼き物「焼」に、頭をスープ「湯」に。ビールのアテに小イカ「脆巻」を蒸し物「蒸」でオーダー。どちらも「現撈」と表示のある、基隆水揚げのローカル魚なのも嬉しい。

案内された市場食堂で材料を渡し、台湾ビールで待つことしばし。最初に運ばれてきたイカはふくふくと柔らかく、身の甘さが自然な感じ。朝とれのを直送して蒸したうまさで、テンポ良く7匹いってしまった。スープはアマダイの頭を使った、味噌仕立ての海鮮汁。甘めの味噌がアラの強い甘さと相乗効果となり、ダシガラにならずしっかりと味が残っている。豆腐とネギだけのシンプルさが、漁師料理っぽくていい。

そして主菜の焼き物は、皮ごと口に運ぶと白身がサラサラ上品。甘みはそれほど強くなく、スルスルと入るのが気持ちいい。中骨についた身がカリカリ香ばしく、ビールの肴にもってこいだ。アマダイは日本では、京料理で使われる若狭のひと塩ものが知られる。それが台湾で味わうと、温暖な東南アジアの地魚に感じられるのが不思議。蒸し暑い国で軽い台湾ビールに合う料理になるのも、道理のような。