
台湾と日本は南方海域の漁場が近いため、食される魚種も似ているようだ。市街中心の松江市場の鮮魚店でも、サバやエボダイ、イシモチなど、日本の市場でも馴染みの顔ぶれが見られる。そんな中で台湾ならではの地魚を、カタコトの中国語でおばちゃんに質問。すると一番大きな魚を抱えて笑ってくれた。長さ50センチほどで細長くスラリとしており、Y字の尾びれがキリッ。なかなかスタイリッシュな見栄えである。
サバヒというこの魚、南方の海でとれるスズキの仲間で、ミルクフィッシュの別名の通り甘みの強い白身魚らしい。粥仕立てでいただくのが地元流で、この魚の専門店もあるほど。まさに台湾版ローカル魚という訳だ。市場を後にしたらこれで間食にしようと、長春路と吉林路の交わる角にある「景庭虱目魚専賣店」へ。サバヒ専門店と大書された、青い魚のイラスト入りの看板が目を引く。テーブルの伝票にオーダーを記入して出すと、サバヒの腹側の身がほぼまるごと入りのが運ばれてきた。
身は見た目は白っぽいが、箸をかけると中は皮目にゼラチン風の脂がたっぷりで、それぞれの部位をつまみながら粥をすする。身はやや土の香りが漂い、皮目はこってり脂っこく唇がテラテラに。白身はほんのり甘く後味がクリーミー。加えてかみ締めるとしっかり味が出てくる。例えればスズキの土の香り、イシモチの乳香、サバの身の旨味が一体となり、強靭な個性を持った魚だ。身をほぐして粥と混ぜ、汁の塩気とニンニク香とともにすすると、くせが抑えられてうまい。強い風味の魚を濃い味付けで引き出すのは、素材の味を推す日本の魚料理にはない特徴にも思える。
一緒にたのんだ魚丸湯は、サバヒのすり身の団子入りスープ。しっかり身が詰んでいて、グイグイかじればこちらは土と乳の香りはなく、身の甘みのみのクリアな魚団子である。スープは薄味で団子の味を引き立てているよう。粥と対称なおとなしい味わいで、くせが強い魚なのですり身に向いているのかも。
窓の外の長春路は交通量が多く、昼下がりの喧騒を眺めながら、おやつの粥とスープを味わう。テレビでは台湾版の午後のワイドショーも流れ、アジアならではのゆるい空気が心地よい。ローカル魚を味わうならその土地の空気の中で、は海外でもまた、同じのようである。