那須高原の開墾において開かれた土地は、荒地や寒冷地の場所柄田畑には不向きで、牧場や牧草地に利用されることが多かったという。現在、那須で酪農や畜産が盛んなのは、そうした先人の苦労に基づいている。戦後期からの経営者は代替わりして、2代目3代目が継承。中には観光や飲食、物販など事業を展開している方もおり、開拓地から高原リゾートに変貌した那須の今の姿を、象徴しているように思える。

 このたびの視察で訪れた、那須高原今牧場は、1947年に満州からの入植者が開拓したのがルーツだ。1頭の乳牛から始まり、現在は130頭を飼育する酪農家となった。牛舎にはホルスタインとブラウンスイスの2銘柄の乳牛が、飼料を食みのんびり食事中。この数を搾乳するのはさぞ大変か、と思いきや「時間になったら、自分で搾乳舎に行きますよ」と、説明の方が話す。何と自分でゲートに入り、機械が自動で規定量を絞り、終わったらまた牛舎へ戻るのだそう。ハイテク時代の酪農の手法、開拓期の先人が聞いたらさぞかし驚くのでは。

 施設では1日あたり4トン弱の生乳を生産しており、うち250キロほどをチーズに使用している。牛舎に隣接したチーズ工房では、おすすめの2品を試食させてもらった。フレッシュタイプの「ゆきやなぎ」は、牛乳を乳酸菌で固めてサイコロ形に切り、反転させながら自然に水分を落として仕上げている。湯葉や豆腐のようなソフトな味わいで、ひたひたな瑞々しさが文字通りフレッシュだ。もうひとつはカットタイプの「みのり」。サラッと溶ける後味に、軽い酸味が残る。

 説明いただいたのは牧場の3代目で、チーズ工房はこの4月から新たな展開として始めたそうである。おいしいチーズづくりの秘訣を聞いたところ、「自分で走って搾乳舎に行く元気な牛は、乳も良質でチーズの味も良くなる」とか。那須高原の牧場の「今」は、牛の、ひいては後継経営者の元気によって、支えられ活性化しているのかも知れない。