
昨日訪れた徳山は、トラフグの延縄漁の発祥の地という。朝に立ち寄った周南地方卸売市場でも、腹に大きな星をつけたトラフグが、トロ箱で元気に跳ね回っていた。市場には「徳山ふぐ」の宣伝看板も見られ、タコにハモとともにご当地ブランド魚介として、売り出しているようだ。
日本屈指の産地である下関を擁するだけに、山口県の旅行ではフグ料理は欠かせない。もっとも下関は水揚げ地というより「集積地」で、扱われる天然トラフグは瀬戸内をはじめ九州、伊勢湾、三河湾、遠州灘など、全国各地で揚がったもの。そんな中で最近は、県内の水揚げ地それぞれでも、「地物」のフグを売り出す動きも。徳山ふくのようなオリジナルのローカルフグが、各地で山口の魚食の旅を盛り上げているようである。
山口県は瀬戸内海と日本海の両方に面していて、県内を周遊すればそれぞれの魚介が味わえるのがうれしい。この日は徳山から、県内を縦断して山陰の小京都・萩へ。維新の偉人ゆかりの白壁の街並みを歩いてから、高台にある温泉旅館「萩本陣」に宿泊した。料理のメインはやはりフグ。フク刺は瑞々しさがあふれ舌にヒヤリ、甘みはほどほどでキュッとした弾力も程よい。小鍋のちりは身がグッと締まっていて、パッツリした歯ごたえに身の淡さが滋味あふれる。
仲居さんによると、刺身はマフグ、ちりはシロサバフグとのことだった。マフグは延縄漁で漁獲した天然もので、萩がマフグの水揚げ量日本一とのこと。最近はブランド魚に認定され、人気が上がっているという。地元ではフグの王様トラフグに対し、フグの女王様と称され、やや飴色の身となめらかな味わいに納得である。
山口県のトラフグ漁は9月に解禁されており、このクラスの温泉旅館なら夕食の膳に出すことも可能なはず。なのにマフグを出すところに、地物への愛着と自信が感じられてうれしくなる。ちなみに値段は、トラフグの5分の1。同じ予算でトラフグの5倍食べられるのも、ローカルフグのうれしいところか?