吉川氏の城下町である岩国は、瀬戸内に面していながら、山里の食材が充実している。錦川上流の錦町特産のコンニャク、在来種が起源の岩国レンコンなど。レンコンは古くから万能薬として重宝され、穴がひとつ多く断面が殿様の芙蓉の紋に似ているとも。

 岩国・錦帯橋付近を遊覧する屋形船では、レンコンの三杯酢や辛子仕立てを味わったが、これらの料理は藩主三代の養生料理とのことで、レンコンに続き摘み草の天ぷらをいただいた。竹の器にはナス、オクラをはじめ、様々な葉や実、花までが盛られ、まさに秋の野をそのまま運んできたようだ。

 大ぶりの葉は一枚で手早く衣をつけ、小さな葉や花はまとめてかき揚げ風に。係の方によると、コシアブラやヨモギを先に食べるともたれないそうだが、あいにく季節外れなのでなじみのある野菜から。続いて野草かき揚げ風を、青レモンを軽く絞り、藻塩でさっくりいただく。

 強壮効果のあるノビル、呼吸循環にいいツユクサ、疲労回復のキンモクセイ、風邪の予防のユキノシタ。野の力強い香気のかき揚げをかじるごとに、野草の生命力を取り込んでいるかのよう。青レモンの軽い酸味と、藻塩のまろやかさのおかげもあり、青臭さや渋みは感じられず食べやすい。仕上げにパツパツのクコの実をつまめば、体の毒素が除去されたような、リフレッシュした気分である。

 使った野草は藩の薬草園を復元し、そこで摘んだものという。それを船上で天ぷらにするとは、殿様もうらやむようなご趣向か。締めにモミジの葉の天ぷらをいただけば、船から上がったら殿様の城山の紅葉も愛でたくなるところか。