日本一のアユの産地、と聞いて、日本のどこの川が思いつくだろうか。高知の四万十川、岐阜の長良川、伊豆の狩野川など、名だたる産地を抑え、日本一になったのは山口県の宇佐川のアユである。高知で開催される「清流めぐり利き鮎会」で、第一回目のグランプリを獲得。先月開催の第15回でも受賞しており、かなりの実力派のアユといえる。

 宇佐川は岩国市の錦町を流れる川で、周辺屈指の清流として名高い。ダムがないため水が澄み、餌になるコケの生育もいいため、大型でよい型のアユが育つという。会で審査された焼きアユは姿よし香りよし味よしで、人工建造物のない自然のままの川だからこそ育めた、昔のまま変わらない味の良さなのだろう。

 その宇佐川の下流・錦川の、錦帯橋付近を屋形船で遊覧した。船上でいただいた弁当は、ご当地岩国の食材が満載。瀬戸内の鯛のつくりに錦町特産のコンニャク刺し、岩国レンコンとコノシロの三杯酢和えなど、山海の素材がうまく組み合わされている。岩国寿司は岩国城内で食べられていた郷土寿司で、レンコンなど地野菜に瀬戸内のアナゴをのせ押したもの。これも山海の幸オールインワンのご当地寿司である。

 そして宇佐川のアユは、子持ちアユの半身を甘露煮にしたもの。半身といっても身が分厚く、卵がパンパンで断面がまん丸いほどだ。 頭はよく煮えてホロホロ、大粒の卵がプツプツとコクがあり、しっかり効いた甘辛い味付けに、身の瑞々しさが負けていない。たっぷりのショウガを敷き、8時間もじっくり煮るのがご当地流で、地酒「五橋」の甘さが相乗効果をなし、竹の盃の芳香もあり止まらない。

 五橋は岩盤を流れてきた錦川の伏流水で仕込んだ酒だけに、同じ川で育ったアユとの相性がいいのも道理か。日本一のアユに、日本三大名橋ゆかりの名の酒で、清流に酔う岩国の旅路である。