久々に訪れた倉敷美観地区は、以前に増して観光地化した感がある。1000円均一、パワーストーン、招き猫などのグッズショップに、当地出身の名監督の記念館。物資の集散地として蔵が立ち並んだ昔の面影は、むしろ一筋入った本町や東町に残っている。
 生活感の漂う通りを少し歩くと、町屋はそのままで雑貨や地元食材、ジャズバーなどにリノベーションした店も見られる。女性の旅行者もちらほら見かけ、アンノン世代は美観地区、旅ガールはこちら、ということか。

 今宵の一軒も、観光客向けの美観地区はあえて外して、駅前通りをやや駅寄りに戻った「浜吉」を選んだ。まずはビールのアテに、シャコの唐揚げからいくことに。
 
乙島でとれる「ブランドシャコ」で、頭も足もバリバリいくと、身のふっくら感、ワタのほろ苦味に加え、オレンジ鮮やかな卵がまろやかに甘い。卵はカツブシと呼ばれ、これを食べなきゃシャコの真価は分からないとも。

 調子が出たところで、地ダコ、アナゴ、ママカリの、倉敷の地物を3連続で頼んだ。タコは外がパツパツ、中はトロリと意外にソフトな食感が上品だ。アナゴは白焼きで、白身の味の押し出しが強い。もろみ味噌が独得で、発酵香が膨らみを与える。沿岸底引き網の主要漁獲でいずれも夏が旬だが、冬場の食味もなかなかなのがさすが、豊穣な瀬戸内の地魚。
 一方、ママカリは年に2回旬があり、今はアミを餌に身が肥える晩秋からの旬にあたる。酢漬けにするのが定番だが、品書きの刺身にしたら糸造りで出された。例えれば脂をかなり控えたアジのたたきで、赤身の旨味が脂の濁りなく楽しめる。酢漬けは中骨の口当たりで好みが分かれるが、これは瑞々しくシャクシャク、スルリと入っていく。

 こぢんまりした土蔵の店内を見渡すと、地元サラリーマンばかりで旅行者は自分ぐらい。見どころも食べ物屋も、旅で出会いたい地元らしさは本来、生活感や普段使い感にあり、かも知れない。