村上のサケづくし散歩で最後に訪れたのが、サケを用いた料理を古くから作り続けている「味匠 喜っ川」を訪れた。寛永年間創業、もとは造り酒屋だったのが、村上のサケを用いた食文化を残すべく、戦後から塩引きザケやサケの酒浸しといった、村上の伝統的サケ料理を提供している。
 村上のサケ料理は百種類を超えるといわれ、元来は川に上がってくるため脂が少なく、繁殖のため卵を採取したあとのサケを、おいしく無駄なく食べるための食文化だった。塩引きザケは冬場の保存食でもあり、軒先にぶら下がるサケは冬の風物詩。ここではとれたサケを内臓を抜いて塩をして、11月の終わりから12月の頭頃に写真の干し場へ運んでくる。木枯らしが吹き始めるといい味が出はじめるとか。
 塩引きザケは翌年の1月ごろから食べられ、正月料理にもなっているが、酒浸しはさらに干し続けて酒に漬けて乾燥させ、村上大祭のある7月ごろからが食べごろ。こちらはサケジャーキーといった感じで、もう一つの村上の魅力である地酒との相性も抜群。
 ちなみに全国のサケ水揚げ地の中で、塩引きザケと酒浸しを作っているのは村上のみ。その理由は乾物に適した村上の地形と気候にある。冬はマイナス2〜3度の外からの風が吹き抜け乾燥に適し、夏は30度を越すことで旨味が出る。さらに梅雨が長く旨味が落ち着くなど、発酵を程よくするためタンパク質やアミノ酸がちょうどいい具合に変化して、味がよくなるそうだ。四季のメリハリがある年が美味しく仕上がるそうで、「村上の風と塩がつくる自然の芸術品」とご主人。
 天井からずらりとサケがぶら下がる干し場で伺った話の中で、「塩引きザケと酒浸しは村上の家のおかずであり、ふるさと、おふくろの味。私たちは商品をつくるというより文化をつくっている」との言葉が印象に残った。水揚げ地ならではの素敵な食文化、今もここに健在だ。