知人の縁で、吉田類さんと酒席をともにすることになった。イラストレーターであり、酒場と旅をテーマにした執筆も多数。加えて俳句の愛好会も主宰されており、プロフィールには「酒場詩人」とも。現在、BS-TBSで「吉田類の酒場放浪記」(毎週月曜21時~)もオンエアされており、まさに大衆酒場のスペシャリスト、といった方である。
 19時に新橋集合とくれば、そんな大衆酒場の選択肢には事欠かず、1軒目はこのところメディアへの露出も多い『龍馬』へと向かう。
 立ち飲みの店であるここは、焼酎の種類が豊富で、つまみがほぼ300円という安さ。中ジョッキを空けたら、自分は類さんご出身の土佐の栗焼酎「ダバダ火振り」、同行者も高知の「酔鯨」や静岡の「磯自慢」など、好みの地酒で気勢をあげている。
 マグロ中落ちに鶏の竜田揚げという人気メニューをアテに、小一時間飲んだら立ち飲みの流儀、とばかり、次にはしごだ。

 類さんいわく、立ち飲みの際のスタイルは、左手をカウンターに添えて半身に構え、右手でグラスを傾ける、という。ダークダックスの歌唱スタイルから「ダーク」と呼ばれるこのスタイル、半身になって場所をとらないようにして、混雑時にお客がなるべく入れるための配慮とも言われる。類さんによると、そのルーツは西部劇に出てくるバーにある、とのことで、右手でグラスを持つのは利き腕を塞ぐことで、すぐに拳銃を抜けないようにするためとも。
 ほか、支払は多くがキャッシュオンデリバリーなので、なるべく小銭を用意しておくこと。だらだらと長居は無用なこと。最奥は常連用の席であることが多く、一見客が座るのは慎むこと。などなど、立ち飲みならではの流儀がいろいろあるようだ。

 2軒目に行く途中で通った、烏森神社参道に店を構える「王将」が偶然空いており、軽く一杯中継ぎに。創業1958年、もう50年の間営業を続けている、屋台作りで周囲をビニールシートで囲っただけの、シンプルなつくりのお店である。
 親父さんの会話がなかなか楽しく、触るといいことある「幸運の柱」とか、昔撮影したラグビーの写真を見せてくれたりとか、話題に事欠かない。常連さんも会話に加わり、ほんの一杯、15分ほどの滞在なのに、十二分に立ち飲みの醍醐味を満喫できた。

 3軒目は新橋駅前第一ビルにある、秋田料理の『和作』というお店。10人入れるかどうかという、小ぢんまりした店は、すでにいい気分となった常連さんたちで、雰囲気が出来上がっている。元・演歌歌手というご主人の、駄洒落乱発のトークも冴えわたり、(?)、卵で腹がパンパンの焼きハタハタを肴に、一同、燗酒が進む進む。

 

 ここで、店のお客一同の参加で、「句会」を催そう、という類さんのご提案。御題をもとにして、各自が詠んだ作品を類さんが詠み上げ、拍手の量で選を判断、それぞれに講評を類さんよりいただくこととなった。

 出された御題は「銀杏」。作品を列挙すると、

 「母の顔 想えば涙 黄色い粒」(これが好評)
 「初恋の 人が好きだと いった銀杏」(「言った」と「炒った」がかかってる)
 「こんにちは 今うまれたよ ぎんなんこぞう」
 「宵も夜 銀杏匂い 類は友」(ウマイ!) 
 「モノトーン ケーキショップ(?) SLの声」
 「今つどう 酒盃に浮かぶ キンボール」
 「かれ葉散る 季節になれど 恋生まれ」
 そして類さんは「銀杏や 裸婦のつまめり 指の先」(何かやらしいな?)
 ちなみに拙作「銀杏の はぜる音に連れ 燗進む」 御粗末。

 それにしても、酒を飲みながら俳句をひねるのは、結構楽しく盛り上がる。あれこれ考えてうまく作ろうとするとあざとくなり、酔った頭でパパッとやると、意外と分かりやすいのができてウケるようだ。酒が強い人は、理性的な分かえって不利かも。 

 

 結局3軒はしごして、23時半に終了となった。3軒分合わせても5000円ちょっとぐらいの飲み代だったのも、大衆酒場ならではだろう。これは酔いどれでの句会も合わせて、くせになってしまいそうだ。 (2009年12月21日食記)

※BS-TBS 「吉田類の酒場放浪記」は、このサイトを参照。
 http://sakaba.box.co.jp/info.html

※吉田類さんの近著「東京立ち飲み案内」はこちら。
 http://www.bk1.jp/product/03113253