ここ数年毎年この時期に、名古屋周辺の観光をPRする会合に参加している。愛知万博が開催された2005年以降、毎年行われていて、万博後のリバウンドで観光客が減ってしまうのを懸念してなのだろう。とはいえ、万博会場の跡地を人気のあった「サツキとメイの家」を残して自然公園として整備したり、名古屋駅前に大規模なショッピングモール・ミッドランドスクエアがオープンしたりと、名古屋の観光はその後も話題に事欠かず元気いっぱいだ。
 もちろん、名古屋の観光要素の目玉である「名古屋グルメ」も、注目度の高さは相変わらず。味噌カツ、天むす、手羽先など、東京へ進出した店も少なくなく、この会合も毎回、そんな東京進出の名古屋グルメの店で行われていた。銀座の味噌カツ「矢場とん」、新橋の鳥料理「伍味酉」と、東京へ進出した地元の名店での開催が続き、今年はどんな店で何がいただけるのか、楽しみである。

 当日はこの冬一番の寒さで、内幸町駅から会場である日比谷シティへ向かう途中、ほんのちょっと地上を歩いただけで、厳しい寒さが身にしみる。こんな日は名古屋コーチンの鍋であったまりながら熱燗を傾けて、などと期待しつつ、地下2階の飲食店街にある『素材屋』へ。座敷へと通されると、すでに鶏鍋らしい準備ができている様子。
 開宴に先立ち、関係者からの挨拶があり、愛知万博のおかげで名古屋の魅力の認知度はアップ、来訪客も増えたが、まだまだ東京や大阪には追いつかない。これからも観光促進に変わらず力を入れていきたいと、現況と展望に力が入る。乾杯の後にも引き続き伺った話によると、昨年もテレビ塔のリニューアル、栄に相次いでブランドショップが出店、駅前にはルーセントタワーやスパイラルタワーなどショッピングビルがオープンするなど、名古屋は引き続き変貌を遂げているという。加えて2010年の名古屋開府400年も間近で、それに合わせて名古屋城本丸御殿が整備されるなど、万博後の大規模イベントとしてPRに躍起になっているようである。

 となれば、今日の宴も今後の名古屋観光にひと役買うであろう、名古屋グルメが主役ということか。まずはローストチキンから頂くと肉の味がしっかりしていて、さすがは名古屋コーチンと思いきや、「これはコーチンじゃなく、普通の鳥だそうです」と関係者のひとりが苦笑。ならば、と鶏鍋に箸をのばしたところ、これも名古屋コーチンかどうか定かではない様子。
 過去に開催された会の会場は、いずれも名古屋のガイドブックに必ず載っている名の知れた店ばかりだった。一方、今回の会場である「素材屋」は、名古屋グルメを全面に押している店ではない。名の通り、食材にこだわった料理がコンセプトという居酒屋で、東京周辺でも比較的見かけるチェーン店である。「毎年開催しているおかげで、会に使えそうな都心に店を出している名古屋グルメの店が尽きてきて…」そろそろネタ切れです、と関係者は笑っている。



素材屋の水炊き。鶏はあいにく名古屋コーチンではない


 もっともこの店、名古屋に全く縁がない訳ではない。第1号店がオープンしたのが、実は名古屋の金山。チェーンも中部地区を中心に、首都圏周辺と関西地区に展開しており、いずれの地域の店でも名古屋の味覚もちゃんと扱われている。
 興味深いのが、地域ごとの嗜好に合わせて、メニューのテイストを若干変えていること。ホームページで中部エリア版のメニューを見てみると、味噌カツ、名古屋コーチン炙り、天むすに手羽先と、名古屋グルメのメニューがあるわあるわ。首都圏版は対照的に少なめで、手羽先や味噌カツ、ひつまぶしなど人気メニューが数種のみ。今は全国的に名古屋グルメは認知されているから、地元よりむしろよその地域で、名古屋グルメメニューを充実させたほうがいいような気がするが。

 この日も有名どころの名古屋グルメの料理は出されるそうで、序盤は名古屋コーチンを偲びつつ? 普通の鶏鍋とローストチキンをつまむとしようか。名古屋コーチンといえば、昨秋にこのところ世間を騒がせている「食品偽装」の話題にのぼったことが、記憶に新しい。
 そもそも名古屋コーチンはブランド鶏としての評価が高いため、以前から「まがい物」が多数出回っていると噂されていた。それが昨秋に行われた調査の結果、調査対象の2割が名古屋コーチン以外の鶏肉だったことが発覚、世論の食品偽装に対する厳しさもあり社会問題となった。純系名古屋コーチンには、「名古屋コーチン普及協会の会員が、公認の種鶏場より供給された種鶏を、名古屋周辺で生育させた鶏」という定義があるが、商品に対しそれをチェックする仕組みがなく、さらに協会非加盟の養鶏業者も存在、定義に関係なく独自に出荷しているなど、ブランドの管理基準が曖昧だったことが原因のひとつといわれている。
 今後は対策として、商品のDNA鑑定による調査を行ったり、交雑種や全く別の種類の鶏が流通していた場合は指導を施すなど、「名古屋コーチン」と名乗る商品のチェックを厳しくしていくという。が、この会の関係者によると、実際には「純系」を維持することは難しく交雑は生じてしまう、また首都圏など県外に出してしまった肉の管理はどうするかなど、問題は少なくないよう。「2月に営業を再開する赤福と同じで、健康被害はないんだけれど、一度ああいう風に報道されると、信頼回復に手間と時間がかかるのは仕方ないね」と、名古屋グルメの代表格だけにこの会の参加者も動向が気になっている様子である。


味噌串カツは、名古屋名物味噌カツの原型とも


 この日に出された名古屋グルメは、全部で2種。先に出された味噌串カツは、豚肉の串揚げに甘い味噌ダレをたっぷりまぶした、串カツの味噌カツ版。味噌カツといえば、トンカツに味噌ダレをかけまわしたのを想像するが、味噌カツのルーツは屋台でどて煮の汁に、串カツを浸して温めて食べたものといわれている。だから味噌串カツは、味噌カツの原型に近いのかもしれない。味噌ダレが染みた衣がパリパリとクッキーのようで、しっかりした甘みが肉との相性がいい。
 続いて出てきたのは、皿に山盛りの手羽先だ。手羽先はそもそも、捨てる部分だったのを美味く食べられるように、タレと揚げ方を工夫したもの。皮のパリッとした食感と、香ばしいタレの味わいが身上で、ここのも表面にこってり甘いタレがたっぷりとかけられている。関節でふたつに分け、クロスした骨をねじって戻しながらバラし、骨についた肉をこそげるようにして食べる。羽の付け根の部分は意外に肉が付いており、羽の部分は皮がパリパリ香ばしい。

 宴も盛り上がり、いよいよ名古屋グルメも主役が登場か、といった頃合だが、あいにく別の約束の時間となってしまったため、宴半ばにして後ろ髪をひかれつつ、ここで会を中座することに。合流した、熊本の友人とともに流れていく先は、同じフロアにある、酒の締めくくりにありがたい意外な料理が売りの店。以下、次回にて。(2008年1月17日食記)